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ミステリ企画「ある館でのお話」

 この世界はとても不思議だと思う。
 例えば、地球が出来たことも不思議だし、その後で生物が生まれたことも不思議だと思う。
 それに、どうして猫はあんな可愛く進化したのかも不思議だ。
 不思議過ぎて頭がショートしてしまいそうなくらい。
「ねぇ、智ちゃん」
 私は回転椅子をゆっくり回転させながら高級そうなベッドに寝転がっている智ちゃんに声をかけた。
「……んー、なぁに?」
 今まで寝ていたのか智ちゃんは反応は普段より鈍かった。
 単純に面倒というのもあるんだろうけど。
「ごめんね、ちょっと聞きたいことがあって」
「んー……」
 なんだか、こんなくだらないことを聞くために起こしてしまったと思うと罪悪感を感じるけど、今さらやめるのもどうかと思う
から素直に聞いてみることにした。
「魔王に世界の半分をやろうって言われたらどうする?」
「魔王を殺して世界を支配する」
 うーん、智ちゃんってば物騒だなぁ。
 というか、私が聞きたいこととは違うことを聞いちゃった。
 失敗だね、テヘ。
 そんなことより、地球の誕生秘話とか猫とかその他色々と不思議で気になることは沢山あるけど、今一番気になることは――
「私たち、ちゃんと家に帰れるのかな……?」
 ここから生きて脱出出来るかどうか。
 それが一番気になることだった。


 私こと愛澤なゆきは友達の篠宮智美と一緒に知り合いの別荘に来ていた。
 智ちゃんの家がお金持ちだからその繋がりで招待されたらしい。
 ただ、智ちゃんにとってはここに来ること自体はどうでもよかったらしいのだけど、私が前々からこういうところに来たがっていたのを思い出して「友達も一緒でいいなら」と言ってくれたという話を聞いたときには感動したものだ。
 話がずれたけど、要は『私は智ちゃんのおかげで来れた』ということだ。
 前々からこういうところで実際に暮らすとどういう感じなのかを知りたかった私としてはとても感謝している。
 もちろん、何の関係もないような私に対しても優しいここの人たちにも。
 食事は美味しいし、探検は出来るし、海は泳げるし。
 問題があるとすれば、今日になって帰りのボートが故障してしまったことだ。
 俗世との関わりを断つためにこの島には電話などはなく、毎朝船で来る牛乳屋さんに頼るしかないらしい。
 話を聞いたときは帰れないということを考える前に牛乳屋さんは俗世じゃないのか、と心の中で突っ込みを入れてしまったのはまぁ、余計な話。
「大丈夫よ、明日の朝には迎えが来るんだし」
 智ちゃんは面倒くさそうに言った。
「でも、殺人事件が起こるかもしれないし」
「ミステリの読みすぎよ」
「え、ミステリで読んだことあるのは『そして、だれもいなくなった』くらいだよ?」
「……じゃあ、ドラマとかの見すぎよ」
 智ちゃんは疲れたような声でそう言った。
 やっぱり、昨日の探検の疲れが残ってるのかも。
「智ちゃん、大丈夫?」
「別に何も問題ないけど?」
「なら、いいけど……」
 智ちゃんの体調のことを考えていると扉を軽く叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
 智ちゃんのその言葉に「失礼します」と言ってから入ってきたのはこの家の執事の千羽さんだった。
 もう髪も髭も真っ白だというのにタキシードを着るその姿はかっこいいと思わずにはいられない。
 私のお父さんとは大違いである。
「おはようございます。お嬢様方」
 千羽さんはそう言って深々とお辞儀をした。
 智ちゃんはこの館の人たちと面識があるからともかく、ただ付いてきたたけの私にまでこの態度を崩さない辺り、一流の執事だな、と思う。
「朝食が出来ましたので、そのお知らせに参りました」
「分かった、すぐ行くわ」
「ありがとね、セバスチャン」
 セバスチャンというのは私が勝手に付けたニックネームである。
 智ちゃんには古いとか言われたけど、執事と言ったらやっぱりセバスチャンだと思う。
「それでは」
 千羽さんは頭を下げ、最後にそう言ってから扉を閉めた。
「……私はこのまま行くけど、どうする?」
「んー、私は着替えてから行くわ」
「あーい」
 私はそれ返事をしてから部屋を出た。
 智ちゃんとはこの館に来てからほとんどずっと一緒にいたから一人でいるというのは割りと不思議な気分になる。
 まぁ、ここには二日もいたんだし、智ちゃんなしでも迷わないでしょ。 多分。
 そんな初めてのお使いさながらの緊張感を感じながら歩いているとこの館の主人――光輝さんの息子である大地さんとメイドの菊花さんが歩いているのが見えた。
 私は大地さんのことは苦手だからあまり近づきたくはなかったりする。
 まぁ、いくら何でも失礼だとは思うから無視したりはしないけど。
「こんにちわ」
 私が声をかけると二人は振り返る。
 大地さんは笑みを浮かべ、菊花さんは無表情で私を見た。
「よう、嬢ちゃん」
「おはようございます」
 大地さんは軽く手を上げるだけだというのに、菊花さんは千羽さんと同じくらい頭を下げた。
 まぁ、菊花さんはメイドだからなのだろうけど。
「ん、篠宮の嬢ちゃんは?」
 大地さんは智ちゃんがいないことに気づくとそう尋ねてきた。
「別に。 着替えてるから先に出ただけですよ」
「そういう時は待っててやれよ」
「そんなの私たちの勝手でしょう」
「は、そりゃそーだ」
 ……やっぱり、私はこの人が苦手だ。
 何を考えてるのかさっぱり分からない。
「大地様、はやく向わなければ海様に取られてしまいますが」
「わかってるって。 ……じゃあな」
 そう言ってから大地さんは歩いて行った。
 ……どうせ、食堂でまた会うんだから一緒に行ってもよかったのに。
 まぁ、私が大地さんを苦手がってるように、大地も私のことが苦手なのかも知れない。
 だから、菊花さんは早く歩くように促したのかも知れない。
 もしくは、まったく違う理由かもしれない。
 やっぱり、世界は分からないことだらけだ。
 いや、そこまで壮大な話でも無いけど。
「……というか、こんなところで突っ立ってないで早く行こう」
 別に食べるものがなくなることはなくてもなるべく美味しい状態で食べたいし。
 そう考えた私は食堂まで二人にギリギリで追いつかない速さで歩くことにした。
 だけど、本当に広い舘だなぁ。
 十分くらい歩いてるのにまだ食堂に着かない。
 ……もしかして、迷った?
「いやいや、いくら大きいからって室内でそんなにほいほい迷うわけが……」
 自分にそう言い聞かせるけど、今まで食堂に行こうとしたときにこの道を通った記憶はない。
 何で二人と別れて数分で迷ってるんだ、私!
「あれ、どうしてこんな所にいるんですか?」
 声色で誰の声かを判断出来たので、さりげなく食堂に案内してもらおうと思うが、その声を出すことは出来なかった。
 その声の主の恰好が私の予想の範疇を超えていたからだ。
「……何で、そんな格好してるんですか?」
「え、何か変ですか?」
 そう言ったのは空さん――この家の長男なのだけど、何故か、メイド服だった。
「いや、さすがにその服装はどうかと思いますよ……」
 空さんに女装癖があるのはこの二日間で十分に知っていたけど、さすがに家を継ごうという人がメイドの格好をしているのはどうなんだろう。
 お金持ちだとそういうことは些細な問題なんだろうか?
「なんというか、この格好が一番落ち着いて……」
 しかし、はにかみながらそう言う姿は下手な女の子よりよっぼど可愛かった。
 一人の女としては複雑な気分になる。
「……あれ。そう言えば篠宮さんは?」
 智ちゃんがいないのが不思議だというような感じで空さんは尋ねてきた。
 ……どうやら、私たちはセットだと思われてるらしい。
「智ちゃんは着替えてから出るって言うんで先に出ちゃいました」
「それで、迷っちゃったんですか」
 空さんはイタズラっぽい笑みを浮かべながら私がさりげなく隠そうとしていた事実を当ててしまった。
 相手が他の誰かなら逆ギレの一つでもしたんだろうけど、空さんの場合はそんな気にならないのが不思議だ。
「それじゃ、一緒に行こうか」
 まぁ、この優しさが原因なんだろうなぁ。
 そんな羨望とも嫉妬とも取れるようなことを考えながら空さんと一緒に食堂に向かった。




 ドラマに出てくるようなこの食堂でも、何回も見ていると流石に飽きるなぁなどという失礼なことを考えながら円状になっているテーブルに置かれている料理とこの場にいる面々を見回す。
 まず、時計の9時に当たる席に座っている大地さん。
 隣の10時に当たる席に座っているのが大地さんの姉で空さんの妹の海里さん。
 そして、手前の6時に当たる席に智ちゃんが座っていた。
「どうして、私より早いの!?」
「それは私の方が聞きたいんだけどね」
 智ちゃんは呆れたようなため息混じりに言った。
 しょうがないじゃん。 私はこんな広い家に来るのは初めてなんだし。
 心の中で文句を言いながら、智ちゃんの右隣に座った。
 それにしても、何で千羽さんや菊花さんたちメイドさんは座らないんだろう。(もちろん、空さんはメイド服を着ているだけで実際にはメイドどころかご主人様に当たるわけだから普通に座っているけど)
「お父様、遅いわねー。何やってるのかしら」
 そう言ったのは海里さんだった。
 不機嫌そうに自分の青い髪を弄っている姿はとても怖い。
「私が見て来ます」
 そう言ったのはこの館のメイド(厳密に言うと菊花さんは大地さん専属のメイドらしい)の紫さんだった。
「あ、あの、私も一緒に行っていいですか?」
 私は思い切って聞いてみた。
 一通り探検したものの、どんな部屋なのか興味があったからだ。
「……それじゃ、私も一緒に行くわ。 また迷子になられても困るしね」
「いくら何でも紫さんと一緒に行って迷うわけないじゃん!」
 私は智ちゃんのボケに会心のツッコミをした。
 私と智ちゃんの付き合いなのでこういうのは打ち合わせがなくても分かる。
 そして、今のボケが本当は私が着いていくのを拒まれないようにしてくれた、というのもよく分かった。
 本当に智ちゃんは素直じゃない。
「……分かりました。それでは、参りましょうか」
 紫さんはそう言って私が入ってきた扉を開けて光輝さんの部屋へと行こうとしたので私たちはその後ろを着いていく。
 道中で思ったことはやっぱり、この館は大きいということと何で紫さんは迷わずに歩けるのか、ということだった。
 いや、この館ではむしろ、迷っている私の方がおかしく感じるくらいなのだ。やっぱり、普段からこんなところに住んでいるとそういう能力が身に付くのかな?
「ここがご主人様の部屋です」
 紫さんはある扉の一つの前で立ち止まって言った。
 少なくとも、扉だけを見る限りでは私たちの部屋と大差ない。
「ご主人様、どうかなされましたか?」
 扉をノックしながら紫さんは部屋にいるであろう光輝さんに声をかける。
 しかし、部屋の中から物音はない。
「……ご主人様、部屋を開けますよ?」
 紫さんはそう言うとメイド服についているポケットの一つから鍵束と取り出して鍵を開けた。
 扉の先にはぎっしりと本を詰めている本棚やよく探偵ものに出てきそうな机がある。
 いや、それ以上に目につくものが一つある。
 でも、出来ることならあまり見たくない。
 真っ赤な血の池と中心にある光輝さんの死体――
「はぁ……」
 智ちゃんはため息を吐くとあっさりと部屋の中に入っていく。
 私も紫さんも動けずにいるというのに、智ちゃんは光輝さんのところまで歩いて行く。
「……またですか?」
 智ちゃんはため息交じりに話しかけた。
 私でも紫さんでもなく、死体に。
 冷静に見えるけど、内心は動揺してるのかな?
 そんな風に考えていると、
「いやぁ、まさかあっさりバレるとは思わなかったよ」
 光輝さんはまるで寝転がっているところから起き上ったみたいに何気なく立ち上がった。
 ……いやいやいやいや、何で、そんなにピンピンしてるの?
「えっと、あの……」
 紫さんも今の事態を飲み込もうとしているけど、何から聞けばいいのか分からないという表情をしていた。
 というか、事情を分かっていそうなのは智ちゃんだけだ。
「……二人とも、驚いてるじゃないですか」
「そりゃあ、驚かす側としては冥利に尽きるなぁ」
 呆れている智ちゃんの言葉に笑いながら返す光輝さん。
 えっと、実は光輝さんは死んでないってことは今のは死んだ振りで……。
 何で、そんなことをしてたの?
「まぁ、そこら辺の説明は後にさせてくれないかな? 先にお風呂に入って綺麗にしたいからね」
 私の考えを読んだかのように、光輝さんはそう言った。
 ……やっぱり、この館にいる人は変な人ばっかりだ。



「つまり、今日もお父様のくだらない冗談のせいで食事の時間が延びたってわけね」
 光輝さんの部屋を出た私たちは食堂に戻って分かる範囲の事情を説明した。
 そして、その結果が今の海さんの一言である。
「こら、まだそうだと決まったわけじゃないでしょ」
 空さんは自分の父親に対してひどいことを言う海さんを叱った。
 でも、その言い方だとまだ確定はしてないから、と言いたいように聞こえる気がしないでもない。
「はっ、あの親父が変なのは今に始まったことじゃねーだろ」
 大地さんも自分の父親なのにひどい言いようだった。
 この3日間、この3人を見ているとあまり光輝さんのことを好きじゃないように見える。
 というか、大地さんと海さんに至っては嫌ってるようにさえ思える。
 でも、3人とも何だかんだ言って逆らってるところを見たことがない。
 まぁ、ほんの一部しか見てないんだからどうなのかは分からないけど。
「まぁまぁ、ご主人さまへの陰口その辺にしまひょ」
 そう言ったのはこの館の料理長の弥生さんだ。
 と言っても、この館に弥生さん以外に料理を出来る人はいないので(手伝いくらいならみんな出来るだろうけど)ほぼ彼女一人で全員分を作っているわけである。
 多分、この中で弥生さんに意見出来る人なんかいないだろう。
 もちろん、冗談だけど。
「そうは言っても、そのせいで貴方の料理の味が落ちたのよ?」
 海さんの怒りは相当なものだ。
 それこそ、自分の作ったもののように怒っている。
「そりゃあ、うちかて美味しゅう食べてもらいたいけど、美味しゅうなくなったらそれはそういうことを考えへんうちのミスや」
 にこやかな笑みを浮かべながら海さんを諭す弥生さん。
 というか、何で料理を作った弥生さんより海さんの方が怒ってるのさ。
「いやぁ、弥生くんの料理は時間が経っても美味しいよ?」
 いつの間にか海さんの後ろにいた光輝さんが言った。
 ……いや、本当にいつの間に入ってきたの?
 気配も足音もまったくなかったんだけど……。
「それに栄養面にも気を遣ってくれているし、弥生くんには頭が上がらないよ。 ほんと」
「そない褒められたら照れますがなー」
 光輝さんの褒め言葉に照れ笑いを浮かべる弥生さんは可愛いなぁ。
「……で、どうしてお父様は遊んでたのかしら?」
 うわぁ。 顔は笑ってるのに声が全然、笑ってない。
 私が怒られてるわけじゃないのに怖いんだけど。
「いやー、これには深ーい訳があるんだよ」
 光輝さんは光輝さんで海さんの期限を逆なでするような言い方をするし。
 やっぱり、この家族は仲が悪いんじゃないかな?
「実は、今朝の内にゲームを考えたんだ」
 光輝さんは急に真面目な顔をして言った。
 元々の顔立ちはいいし、今はタキシード服なんかを着てるせいでかっこよく見える。
 でも、言ったことは「ゲームを考えていた」だから実際はそこまでかっこよくはない。
 というか、何でゲームを考えてあんな惨状になるのか分からない。
 分からないことは嫌いだ。
「まぁ、詳しいことは食べながら話そうか」
 そう言って、光輝さんは智ちゃんの正面に座った。
 誰も「散々、長くしたのはどこの誰だ」とは言わない。
 面倒だっただけかも知れないけど。
「ルールは簡単。 私を殺した犯人を当てればいい」
「……つまり、そんなことのためにわざわざ朝食を遅らせたわけ?」
「そうそう」
 満面の笑みで頷いているけど、周りの視線(特に海さん)は冷たいってことを光輝さんは分かってるんだろうか?
 分かってるとしたら相当な大物だ。
 こんな大きな館に住んでる時点で十分に大物だけど。
「……つっても、推理のしようがねーじゃねーかよ」 
 大地さんがぽつりと呟いた。
 まぁ、死体役である光輝さんも動いちゃってるし、現場である光輝さんの部屋も紫さんが片付けたから推理の仕様がないけど。
「だから、一人三回まで私に質問をして、それにYESかNOで答えるからその3回のうちに犯人を当てられたら勝ち」
「……それじゃ、あれは本当にただの演出だったのね」
 溜息を吐きながら智ちゃんは愚痴をこぼすように言った。
 まぁ、いきなりこんなことになったら当然だと思う。
 というか、話が急すぎてちょっとついていけない。
「ちなみに、当てられたらこの家にあるものなら好きに持って行っていいよ」
「よーし、絶対に当てて見せる!」
 私は思わずガッツポーズをするほど意気込んだ。
 おかげで私まで周りから白い目で見られることになったけど、そんなことは気にならない。
 というか、気にしたくない。
「……それは、犯人役はいきなり「あなたが犯人です」って言われるんですか?」
「実は前もって犯人役にはこういうことをするから犯人役よろしくって言ってあるよ」
 つまり、犯人役の人は前もって知ってるから行動が怪しくなる可能性がある。
 決定的じゃないけど、判断材料くらいにはなるかもしれない。
「あ、それと質問には私の主観で答えるよ。 例えば、「犯人はあなたの家族ですか?」という質問が来たら犯人が篠宮さんかなゆきちゃん以外の場合はYESと答えるよ」
 つまり、迂闊な質問をすると推理も何もなくなっちゃうわけか。
「とりあえず、一通りは説明したし、腹が減っては何とやらと言うしここはそろそろ朝食を食べようか」
 ……いや、まぁ、お腹は空いてるけども。
 私は心の中で「誰のせいで送れたと思ってるの」と言うことしかできなかった。




 弥生さんの作ってくれた料理を言葉で表すとしたら最高だったとしか言いようがない。
 というのも、私の知ってる言葉では正確に表すことが出来そうにないくらいのおいしさだったのだ。
 この館に来て3日も経つというのに、未だにこのおいしさに慣れないとは……。
 私の知る限り、こんなおいしいものを作れるのは弥生さんと智ちゃんの家の料理人たちくらいしかいない。
「そろそろ、ゲームを始めようか」
 唐突に光輝さんは言った。
 いや、もうみんな食べ終わったんだからタイミング的には丁度いいのかな?
「じゃあ、質問を考えた人から私に耳打ちしてくれ」
 一瞬、何でそんなことをしなければならないのか分からなかったけど、そうしないと前の人の質問内容が聞けて有利になることに気づいた。
「んじゃ、俺が一番なっと」
 そう言って、一番初めの挑戦者は大地さんだった。
 こういうことには興味なさそう……というか、本当に興味がないという顔をしているのに一番最初に名乗り出るとは思わなかった。
 何か欲しい物があるにしても、大地さんなら自分で手に入れられそうなものだけど。
「……YES」
「やっぱりな。 そうだろうと思ったよ」
 心底、面倒くさそうな表情をしながらそう言って自分の席に戻る大地さん。
 あれ、質問一つだけ?
「嬢ちゃんとは頭の出来が違うからな」
 私の驚きが顔に出ていたのか、私を見た大地さんは憎たらしい笑みを浮かべながら私を馬鹿にした。
 く、屈辱……!
「次は私が質問します!」
 ここで見返さなければいけないと思った私は即座に名乗りを上げて光輝さんに近づく。
「いやぁ、現役女子高生に耳打ちしてもらえるなんて光栄だなぁ」
 にこやかな顔をして何を言ってるんだ、この人。
 そうツッコミを入れたいのを堪えて私は一つ目の質問をする
「犯人は光輝さんの血縁関係のある人ですか?」
 さっきは「みんな家族だと思っている」って言っていたけど、これならそんな心配はいらない。
「……NO」
 血縁関係はない。
 つまり、残りは千羽さん、紫さん、弥生さん、智ちゃん、私ということになる。
 もちろん、私は犯人役じゃないので残りは4人。
「じゃあ、犯人は男ですか?」
「……・YES」
 よし、これで犯人役は千羽さんで決定だ。
 もう一回質問できるけど、その必要もないので私は席に戻る。
「どうですか、私だって2回で犯人を特定しましたよ」
 私は勝利の笑みを浮かべる。
 少なくとも、これで私がバカじゃないことは証明された。
「その予想が当たってりゃいいけどな」
 しかし、大地さんは相変わらずの憎たらしい笑みを浮かべていた。
 く、屈辱……!
「それじゃ、次は誰かな」
 そうして、次々に光輝さんに質問していき、全員の質問が終わった時に前もって用意されていた紙とペンを紫さんが配る。
 私は何の迷いもなく千羽さんと書いた。
「皆、、書き終わったかな? それじゃ、犯人だーれだ」
 光輝さんの言葉でみんなが一斉に紙を見せ合う。
 皆の紙に書かれていた名前は『宮内 空』だった。
「……何でだー!?」


「ねぇ、いい加減に教えてよぉ……」
 気持ちよく風を切る船に乗りながら私は智ちゃんに何度聞いたか分からない質問をした。
 その度に「自分で考えなさい」と言われていたせいで私の不満は爆発しそうだ。
「……はぁ、何となく何を間違えたのかは分からない?」
「んー、何を間違えたか?」
 私は真面目に考えてみる。
 空さんは女装してたから男じゃないってこと?
 いや、そもそも血縁関係の質問でNOって答えたんだから……あれ、もしかして――
「もしかして、光輝さんと空さんって血縁関係じゃないの?」
「正確に言うなら、あの3人だけどね」
 智ちゃんは特に感情も込めずにそう言った。
「元々は千影さん……母親の連れ子だったの。 数年前に亡くなっちゃったけどね」
 智ちゃんはまるで感情を込めずに言っている。
 でも、言葉には感情が込められていなくても、その目は何か悲しそうなのは気のせいなのかな。
「だから、そこは血縁関係じゃなくて親子関係かどうかで質問すればよかったのよ」
「あ、そうだね……」
 私はもう、そんなことに興味はなかった。
 でも、友達でも踏み込んではいけない場所というのも少なからずある。
 だから踏み込めない。 踏み込まない。
「何が欲しくてあんなにやる気だったのか知らないけど、私に言えばあの館にあるものくらいならあげるわよ?」
「んー……別にいいよ」
「どうして? 私に貸しを作るのが嫌だとか?」
「いや……そういうことしたら智ちゃんの財産目当てで近づいたみたいで嫌じゃん。 友達ってのは対等な関係じゃないと駄目だと思うし」
 私の言葉を聞いた智ちゃんは一瞬、きょとんとしてから急に笑い出す。
「別に、これくらいで……対等じゃなくなるなんてこと、ないのよ?」
 笑いを堪えながら智ちゃんは苦しそうに言った。
 何か、これじゃあ私がものすごく恥ずかしいことを言ったみたいじゃん!
「笑うなー!」
 恥ずかしくなってきた私は怒りの声をあげた。
「ごめんごめん、でも、そういうことを言ったら先週のレストランはどうなるの?」
「それは今月のお小遣いで返すからいいの!」
 でも、智ちゃんが笑ってくれるならこれもいいかな。
 私にとって、地球が出来たことよりも猫があんなに可愛い理由よりも智ちゃんのことが気になる。
 もし、智ちゃんが何かのせいで悲しんでいて、それを解決できるなら――
 他のことなんか分からないままでもいい。
 今の私は智ちゃんと笑いあってればそれで十分だ。
「じゃあ、利息はトイチね」
「鬼畜だー!?」
 どうか、何時までもこんな馬鹿なことをやって笑いあえますように。




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COMMENT

- URL @
06/08 23:49
承認待ちコメント. このコメントは管理者の承認待ちです
るうね URL @
06/10 00:04
. るうねです。
『ある館でのお話』、拝読させていただきました。

冒頭を読んで、すわ「なぜ地球が生まれたのか」という謎を解く壮大なストーリーかと思いきや、友情を絡めた正当な推理劇でしたね。
私も、謎が解けませんでした。うーん、手がかりらしきものが見当たらず……どのあたりが手がかりだったんでしょうか。ご面倒でなければ、解説してくださると、これ幸い(もしかして『質問』の部分のみがミステリ要素だったのかしらん)。
最後のオチはいいですね。主人公の智ちゃんへの友情が伝わってきます。なぜ地球ができたか、なんて、どうでもいいですよね、ほんと。隣にいる誰かが笑ってさえいれば。
と、クサい台詞で〆。
それではでは。
- URL @
06/10 18:42
承認待ちコメント. このコメントは管理者の承認待ちです
りきてっくす URL @
06/10 19:50
感想です. おお、いきなり殺人事件たー!
と思ったら、お遊びだったのね。
それにしても、光輝さん、頑張るなあ……(わざわざ血の海に横たわってまで……笑)
あと、
「それじゃ、犯人だーれだ」
っていう台詞、なんか可愛いですね。
ボク的に、一番好きなキャラです、光輝さん。
舞台設定はミステリアスですが、何かほのぼのとして、安心して読めました。

>私のお父さんとは大違いである。
う~ん、お父さん、かわいそ……。

>執事と言ったらやっぱりセバスチャンだと思う。
そうかなあ……、ボク的にはスティーブンスなんですけど(^_^;)

あと、誤字一個みつけました。
>私はそれ返事をしてから部屋を出た。

とりとめのない感想でごめんなさい。
でわでわ
かじゅぶ URL @
06/10 20:24
かじゅぶです. 読ませていただきました。
なるほど、殺人事件の犯人探しもゲームでなら犯罪にはなりませんね。一本とられました。
アイデアもそうだけど内容も面白かったですよ。
自分もゲームに参加しているような感覚で読めました。楽しかったです。
ではでは、執筆お疲れ様でした^^
藤咲一 URL @
06/11 02:22
執事はやっぱりセバスチャンですよね。. 
 企画ではお世話になります。藤咲一です。
 お疲れ様でした。そして、こんな手法が……

 いやはや、殺人事件がゲーム。これだったら、直接的な犯罪なんて出てきませんよね。この設定だけで、色々物語が浮かびそうです。これだったら、人が殺せそうだ。なんて……

 すこし危ない発言がありましたが、するっとスルーをお願いします。

 物語も、面白かったです。最後は友情。私には鉄板ですね。

 クローズド・サークルならば事件が起きるのは必然。なのにそれを利用した、ゲーム。この企画以外でしたら、ゲームである事を伏せたまま最後にそれも解明みたいな感じにしてみても、面白いかなって思いました。

 なんて……無責任な事言ってます。

 それでは、これからも執筆頑張ってください。

 藤咲一でした。
ベルヘン URL @
06/11 14:01
ネタバレ注意.  自殺は無いとすれば主人公にとって犯人候補は智美含めて8人。
 質問の答えがYESかNOに限定されるなら、3つの質問それぞれで候補者を半分に絞り込む必要があります。

1犯人は今座っているか
→YES:2犯人は男か
→NO:2犯人はメイド服を着ているか

 これで2の質問の答えがいずれの場合でも残りの犯人候補は2人(なはず)、3つ目の質問では候補者の1人を名指しして犯人かどうかを聞けばよいかと。
 ちなみに自分が最初に目星をつけた犯人候補は弥生さんでした。
桂まゆ URL @
06/12 21:27
感想です. はじめまして。読み専の桂と申します。
作品、拝読させて頂きました。
読んだのは少し前だったのですが、コメントがつけられる事に、今気がつきました。(笑)

最初に、気になった事を書きますね。
風呂敷を、広げすぎじゃないかなと思います。個性のある登場人物が多く、そこでゲームが始まる。
ここまではものすごく良いのですが、ゲームが終わるといきなり広がっていた風呂敷が片づけられ、エンディング。私としましては、少々消化不良です。ひとつの物語の中に主人公が紛れ込み、その一幕を切り取ったように思えるのです。
ですから、主人公は友人である智美さんの方がすっきりと収まったのではないかなと。

偉そうな事を書き、申し訳有りません。腐った読者の腐った意見なので、あまり気になさらないでください。

ミステリーをゲームという形で、(しかも血だまりまでつくって)楽しむ変な当主。個性溢れるキャラクターたち。大変に魅力のある物語でした。
謎は、私には解けませんでした。(苦笑)

これからもがんばって下さいませ。
沢木香穂里 URL @
06/13 06:01
. こんにちは。読み専の沢木です。
冒頭を読んで、あっ、これ面白い! と直感。
猫はあんな可愛く進化したのかも不思議だと言う一文もすごくセンスがあると思います。
途中、殺人が出てきたので、駄目じゃんと思ったのもつかの間。
ゲームだったとは。
なるほどこれなら犯罪の出てこないミステリー成立ですね。
謎解きの場面をもっと引っ張って物語全体に対しての割合を多くとると、よりミステリーっぽくなったかも……。
オロチ丸W0632A URL @
06/21 23:05
.  感想遅れてスミマセン、オロチ丸W0632Aです。
 
 自殺(又は他殺)の振りをする、という要素と、『十の質問』(相手が心に秘めたモノを当てるゲーム)の要素を組み合わせる、という発想は、僕には無かったので、面白いな、と思いました(^^)/
 ただ、僕には合わない要素が有ったのが残念ですが、この2人の話は、もっと呼んでみたいな、と思いました。








 

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