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 私は一生懸命走っていた。
 ヤバイ、後数十秒でチャイムが!
 そう思いながら、最後の角を曲がり、全速力で教室へ向かう。
 そして、チャイムが鳴ると同時に教室のドアを開く。
「ギ、ギリギリセーフ!」
 走ったせいで体力を使うなんてことをしたんだから、間に合わなくちゃね。
 しかし、教室から無慈悲な声が聞こえる。
「どう見てもアウトだ馬鹿野郎」
 声のした方を見ると恐怖の担任こと濤崎恭子先生が教卓に皮肉な笑みをこちらに向けながら足を組んで座っていた。
「せ、先生!」
「私に給料以上の仕事をさせようとするなんて、やるじゃないか高町」
 先生の顔は笑っているけど、どう見ても笑ってる雰囲気じゃないよ・・・!
 多分、今の私の顔は引き攣ってると思う。
 この先生はとても怖いのだ。
「よし、じゃあちょっと隣の教室に行こうか」
「うぁ、ちょっと待っ」
 全部言い終わる前に襟を掴まれて強制的に連れて行かれる。

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「さて、何で遅れたんだ?」
 先生は相変わらず皮肉な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「おいおい、せっかく誰にも聞かれないように部屋を移動してやったのに」

「先生には聞かれるじゃん・・・」
 私はポツリと呟く。
「当たり前だろ、お前が遅刻するのが悪い」
 相変わらず、嫌なことをハッキリと言ってくれる。
「・・・柊先輩のピアノの演奏を聴いていたら、眠くなってしまって・・・」
 そう言うと、思いっきりグーで頭を殴られた。
「痛いですよ先生!」
「お前なぁ、人のせいにするなんてよくないぞ」
 だからって殴らなくても・・・
「そんなの、眠くなったお前が悪いんだ。諦めろ」
「だって、先生が言えって・・・」
 そう言うと、再び頭をグーで殴られる。
「なんで殴るんですか!」
「だって、お前の頭ってなんか殴りやすいし」
 なんて理由だ・・・。
「それに、痛く無いように殴ってるんだからいいだろ」
「そういう問題じゃありません」
 本当に教育委員会に訴えようかな・・・。
「まぁ、お前殴ってたらスッキリしたし、戻っていいぞ」
「そうですか・・・」
 なんか、色々な意味で疲れちゃったな・・・。

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「はぁ~、やっと終わった~」
 お昼休みになって、ため息を吐きながら私はいそいそと昼食を取り出した。
「今日は災難でしたね」
「だ、大丈夫・・・?」
 そう言って、椅子と昼食を持って私の席に来た藍色の髪の冷静な女の子が橘命ちゃんで私を心配してくれた少しおどおどしてる黒髪の女の子が道下まちるちゃん。
「それじゃあ、まるで私が心配してないみたいじゃないですか」
「なんで私の考えてることが!?」
 的確かつ最高のツッコミをしてみる。
「なんとなく、そう思っただけです」
 普通すぎる回答だった。
 まぁ、命ちゃんが変なことを言うのは今更だけど。
「それより、早く昼食食べよっ!」
 私のお腹は本気で限界に達しつつあった。
 正直、これ以上食べないでいると暴れだしそうな勢いだった。
「そうですね」
「次は体育だもんね」
 そう言いながら、二人も椅子に座って持ってきた弁当を私の机に置く。
 ちなみに、私はもう箸を持って臨戦態勢だった。
「いただきます」
 三人でそう言うと同時に私は玉子焼きを口の中に放り込む。
 玉子焼きは私の口の中で甘みを出しながらゆっくりととろけていく。
「今日も美味しそうだなぁ・・・」
「相変わらず、職人並みの腕前ですね」
 まちるちゃんと命ちゃんが私の弁当を賞賛する。
「えっへん、凄いでしょ!」
 とりあえず、調子に乗ってみる。
「作ったのはお兄さんじゃないですか」
 命ちゃんにあっさりとツッコミを入れられる。
「わ、私だって手伝ったよ!」
「少しだけでしょうけどね」
 図星なので言い返せなかった。
「いつか見返してやるからね!」
「頑張ってくださいね。それなりに応援してますから」
 ここまでは、毎日のように繰り返される他愛もない会話。
 しかし、次の命ちゃんの言葉は何時もとは違う内容だった。
「そういえば、昨日、兄さんが慶太さんに『好きな人はいないのか?』と訊いたそうです」
 その言葉に、私は口の中のたこさんウィンナーを吹きそうになる。
「だ、大丈夫・・・?」
「う、うん、大丈夫・・・」
 心配するまちるちゃんになんとか答える。
 しかし、次の言葉が気になって心臓はバクバクしている。
 聞きたいような、聞きたくないような。
 そんな微妙な心境をあえて無視して、命ちゃんは結果を淡々と語る。
「どうやら、今のところは好きな人はいないそうです」
「え?それって・・・」
 私はおそるおそる聞いてみる。
 それは、よく言えば「まだ大丈夫」だと言う意味だけど・・・。
「ぶっちゃけ、脈なしだそうです」
 その言葉を聞いた途端、雷に撃たれたような衝撃を受けた。
 そして、そのまま机に突っ伏した。
「だ、大丈夫かな・・・?」
「そのうち、普通の状態に戻ってるでしょう」
 そう言いながら、普通に弁当を食べる命ちゃん。
 唐突にガバっという効果音が付きそうなほどの勢いで顔を上げて、その勢いのまま弁当を食べる。
「あ、あの、理奈ちゃん・・・?」
「そんな美味しそうな弁当を無駄にするような食べ方はやめてください」
 まちるちゃんと命ちゃんが何かを言ってるけど、それを気にせずにひたすら食べる。
 すぐに弁当箱は空になる。
「よっし、今日は暴れるぞー!」
 そう言って、私は体操着入れを持って更衣室まで走ろうとした。
「あ、食べた後すぐに運動しちゃ・・・」
「まったく、忙しい人です」
 教室を出る直後、二人のそんな声が聞こえた。
 別に、私だって好きで走ろうとしてるわけじゃない。
 ただ、どうしても抑えられなかった。
 まだ私にもチャンスがあるという事実が嬉しいから。
 あるいは、私が未だにそういう対象として見られない悲しさから。
 どっちかはよく分からないし、どっちもなのかもしれない。
 ただ、どっちにしても動きたかった。
 これは私の癖なのだ。
 感情が揺れると無性に走りたくなってしまう。
 身体を動かして必死に落ち着こうとする。
 多分、他の人にもあると思うけど、私は特に激しい部類だと思う。
 誰かと本気で口論すると動きたくなる。
 別に、暴力を振るいたいわけではなく、走ったり跳んだりしたいだけ。
 だから、柊先輩に何かしたいわけでも何かをするわけでもない。
 ただ、身体が動かしたくてしょうがない。
 動かさなければ心が壊れてしまいそうな感覚に襲われる。
 だから、ひたすら走る。
 だから、ひたすら跳ぶ。
 身体が音を上げるまでひたすら動く。
 そして、いつも通りに戻る。
 これの繰り返し。
 だけど、そんなことをしていても私は自分が大好きなんだ。
 私は更衣室の扉の前に立つ。
 そして、ゆっくりと扉を開けて中に入る。
 そこは静かで空気が冷たくい部屋だった。
 私はその部屋の時計を見てみると、次の授業まで15分はあった。
 私はすぐに着替えず、その部屋の折りたたみ椅子に座り、ゆっくりと息を整える。
 そうして、身体を休めながら柊先輩を振り向かせる方法について考える。
 だけど、答えは最初から決まっている。
 『その時の自分が出来る限りのこと』
 当たり前だけど、それしかなかった。
 いくら今のうちに手を考えたとしても、どうせ実行できないのは自分が一番分かってる。
 なら、余計なことを考えずにその時になって考えたほうがいいと思う。
 それが私の唯一のやり方なんだから。
 そんなことを考えていると、不意に扉が開く。
 どうやら、クラス委員長の柴崎都ちゃんが来たみたいだった。
「ん?今日はずいぶんと早いんだね?」
「まぁね」
 ちなみに、都ちゃんは高校からのライバルなのだ。
 ただし、運動限定だけど。
「・・・今日は負けないからね」
「こっちこそ」
 そう言って、お互いに握手する。
 すると、扉から他のクラスメイトも続々とやってくる。
 私達は手を離し、最後に挑戦的な笑みを向け合いながらロッカーに向かった。

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 私達は学校へ着くといつも音楽室へと向かう。
 柊先輩は音楽室でピアノを弾くためで、私はそれを聞くために。
 柊先輩は賞を受賞したことはないらしいけど、世界に通用するくらいの実力は持ってると思う。
 柊先輩は『俺ぐらいの腕だったらいくらでもいるよ』と苦笑しながら言ってたけど。
「それにしても」
 不意に柊先輩が口を開く。
「無理に俺に付いてこなくてもいいんだぞ?」
 その顔には少し心配の色が見えた。
 寝不足で眠そうな顔をしてる私を見て心配してくれてるのかもしれない。
「大丈夫ですよ。私は健康だけが取り柄ですから!」
 そう言って、ガッツポーズを作ってみせる。
「そっか」
 それだけ言って、無機質な廊下に再び静寂が訪れた。
 だけど、嫌な感じはしなかった。
 むしろ、心地よいとさえ思っていた。
「(柊先輩も同じことを思ってればいいな・・・)」
 ガラにもなく、そんな女の子らしいことを考える。
「(でも、駄目なんだよな・・・)」
 叶わぬ恋。
 例え、どれほど希ったとしても。
 例え、どれほど望んだとしても。
 だけど、それでもいいんだ。
 それが私の選んだ道だから。
「・・・ちゃん。 理奈ちゃん」
「はい? どうしたんですか?」
「いや、もう音楽室の前なんだけど」
 確かに、もう音楽室の前に立っていた。
「本当に大丈夫か・・・?」
「全然、大丈夫ですよ!」
 明らかに疑っているように見えるけど、何も言わなかった。
「(柊先輩って、そういうところにはすぐ勘付くからなぁ・・・)」 そんなことを思いながら、音楽室の扉を開く。 中央にピアノが鎮座しており、それを囲むように椅子が40個ほど置かれている。
 ちなみに、他の楽器は準備室にある。
 柊先輩がピアノの前に座り、私が近くの椅子に座る。
「何かリクエストある?」
「う~ん、先輩に任せます」
 先輩が曲を弾き始める。
 正直、ピアノのことはよく分からないけど、これが上手い部類に入ることくらいは分かる。
 ピアノの奏でる旋律は儚くも力強く、何よりも心地よい。
 私の瞼は自然と重くなっていく。
「(う、ヤバイかも・・・)」
 そう思いながらも、必死で耐えてみる。
 しかし、そんな抵抗も空しく私の意識は深くまで落ちた。

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「・・・ちゃん。 理奈ちゃん」
 目の前には柊先輩の顔があった。
「・・・ッ!」
 もし、鏡があったら自分の顔が一瞬で真っ赤になるのが見えたと思う。
「こんな時間だけど、大丈夫?」
 私は扉の上に掛けてある時計を見てみる。
 確かに、あと10分くらいでHRが始まってしまう。
「い、急がなきゃ!」
 私は慌てて立ち上がる。
「それじゃ、また後で!」
 私は先輩に手を振りながら走る。
 先輩も苦笑しながら手を振る。
 何気ない日常。
 でも、私にとっては貴重な一時。
 そんな幸せを感じながら、私は教室へ向かった。
 悪夢のような未来が待ってるとも知らずに・・・。

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町の外れの墓地に金髪で髪を両側で縛っている少女が一人で立っていた。
歳は14、5歳くらいの、まだ幼い少女。
少女はそのまま、何かを待つようにして目を閉じながらじっとしている。
これだけなら、場所を除けば彼氏と会う約束をしているようにも見えなくはない。
ただ、その手に握られていたのは銀色の殺意。
いわゆる、刀という物だ。
しかし、その大きさは普通の刀とは思えない。
そして、そんな刀を持ってる少女も到底、普通とは言えない。
「はぁ・・・。どうして私はこんなことをしてるんだろ・・・」
誰に言ったわけでもない、ただの独り言。
「今日は・・・。20くらいかな?」
そう呟いた時、茂みから5人もの男達が現れる。
その男達は皆、鉄パイプなどの武器を持っている。
「まったく、あんた達のせいで私の睡眠時間が減るじゃない!」
そして、少女は言い終わる前に一番先頭の男の首を切っていた。
少女はさらに続ける。
「乙女の美肌を保つには、適度な睡眠が必要なんじゃ、ボケー!」
およそ、美少女とは思えない口調で話し続ける。
そして、3人目の首を切り終わっていた。
4人目の男が少女を鉄パイプで叩こうとする。
しかし、その前に少女の一撃が鉄パイプごと男の身体を切りさく。
さらに、刀は止まる事なく5人目を切りさく。
その瞬間、前後から男達が一斉に襲い掛かってくる。
その数は約10人。
しかし、少女は慌てた様子もなく
「魔力開放、防御壁展開」
そう言うと、少女の後ろから迫ってきた何人かが何かにぶつかったかのようによろめく。
そして、前から迫ってくる何人かはあっさりと少女に切り捨てられる。
「ハァァァ!!」
少女は即座に振り向き、叫びながら遠心力を加えた一撃を放つ。
その攻撃は残りの5人をニ分割するのに十分すぎる威力だった。
少女はバランスを崩しそうになるが、なんとか耐える。
「あれ・・・?残りは勝手に『闇』に戻ったのかな?」
少女の周りには、死体や血は一切、残ってなかった。
「ふぅ、とりあえず報告に戻るかな・・・」
そう言って、少女は闇の中に消えた。

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