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 雨が降っている。
 まるで、雑音を消し去ったかのように静かに―――
「ところで、君はどこまで不思議なことを信じるかな?」
 突然、俺の隣を水色の傘を差しながら歩いている智代はそう訊ねてきた。
 俺が珍しく詩的なことを考えているというのに、それを邪魔するとはなんということか。
 もっとも、一緒に帰ろうと誘ったのは俺なのだけど。
「……別に、特にそういうのは信じてない」
「そうか、それは残念だねぇ」
 何故かアンニュイな表情を浮かべながら溜め息を吐く。
 これだけを見れば、それなりに男にもモテても良さそうなものなのに。
 しかし、ある事件のせいで智代は嫌われ者―――いや、腫れ物の扱いを受けている。
 もしかしたら、この長い紫色の髪も関係があるのかも知れない。
 紫と言うと、毒などのイメージもある。
 いや、これは俺の偏見だけど。
「見えないだけで本当はいるのにねぇ」
「まるで実物を見たかのような口ぶりだな」
「うん、実は見たことあるのだよ」
 さらりと電波な発言をする智代。
 前から変だとは思っていたけど、まさかここまでとは……。
「それ、見間違いとかじゃないのか?」
 念のため、確認を入れておく。
 もしかしたら、悪魔のような格好をした人を見たという意味かも知れない。もしかしたら。
「一応、本人は自分のことを悪魔だって名乗ってたけどねぇ」
 自分で悪魔を名乗るなんてどんな変人だよ。
「まぁ、本当に悪魔だったなんてどうでもいいんだよ。問題は私が彼を悪魔だと思ってるかどうかなんだからねぇ」
「どういう意味だよ?」
「大したことじゃないさ」
 智代は少し声を小さくして言った。
 その顔は笑顔を浮かべるでもなく、涙を浮かべるわけでもなく、ただ無表情だった。
「じゃあ、今までの会話は何だったんだよ」
 まさか、ここまできてただの雑談だというわけじゃないだろうし。
 というか、そうだったら嫌すぎる。
「いや、話が逸れてしまったけど本当はこういうのを信じているかどうかを聞きたかっただけなのだよ」
「へぇ、そうなのか……で、何のために?」
「それはお楽しみという奴さ」
 智代は意地の悪そうな笑みを浮かべながら言う。
 一体、どんな悪戯を仕掛けたというのだろうか。
「まぁ、いざというときには明日にでも相談に乗ろうじゃないか」
「相談しなくちゃいけないほどなのか!?」
 どれだけヒドイ悪戯を仕掛けたんだ。
 というか、本当に悪戯の範囲なのか?
「それじゃあ、今日はこの辺りで失礼させてもらうよ」
 そう言うと、智代は十字路を右に曲がって行ってしまった。
 悪戯の範囲、だよな?
「……気にしててもしょうがないか」
 その時になれば、きっと自分の心配が杞憂だったと思うはずだ。多分。
 そう思いながら、ゆっくりと雨道を歩く。
 しかし、一人で帰ると本当に静かになるな。
 別に寂しいということはないけれど。
 だからと言って、一人だけで嬉しいというわけでもない。
 むしろ、雨が降っているという事もあってかなり気落ちするぞ。
 あ。そういえば、今日は二人とも帰りは遅いんだっけ?
 そんな取り留めないことを考えているとそこに一人の少女が倒れていた。
 ……いやいやいやいや、あれはただあの場所で寝てるだけだ。
 きっとそうだ。そうに違いない。
 そう考え、そのまま立ち去ろうとした。
 しかし、この雨の中で放置すればこの少女がどうなるかを考え、足を止める。
「……もしかしたら、これが智代の仕掛けた悪戯か何かじゃないだろうな」
 俺はそう呟いて、少女をおんぶしていくことにした。
 さすがに、こんなところで死なれたら目覚めが悪い。
「……軽いな、この子」
 この年代の子はみんなこんなものなのかどうかは分からないけど、どうなんだろうか?
 この年代全般が軽いのか、この子だけが特別に軽いのか。
 まぁ、今一番気にすべきことは
「とりあえず、誰にも見つかりませんよーに」
 見つかった際に言い訳に困るこの状況で誰にも見つからないようにすることだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「こ、今後はもう絶対にこんなことはしねぇ……」
 誰にも見つからずに家に着いた際の第一声はそれだった。
 もし、見つかったらと思うと胃を痛めていたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。 
「さて、と」
 とりあえず、雨で冷えた少女の身体を温めようと二階の俺の部屋にある時期外れのストーブを全開で起動した。
 服が濡れているのは問題なんだろうけど、さすがに着替えさせるのには抵抗があるので、タオルで髪や腕を拭くだけに止めておく。
 しかし、さっきからピクリとも動いてない気がするんだけど……
「……いやいや、ないない」
 そんな不安を拭うため、脈を測ってみた。
「―――この子」
 もしかして、もう死んでる?




1.誰かに助けを求める
2.どこかに捨てる
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 6月は雨が降る。
 他の季節にも降るが、この季節は異常に多い。
 そんな6月に、俺はある女の子に出会った。
 女の子は言った「匿ってください」と。
 それだけで俺は自分の意思に関わらず不可思議な出来事に巻き込まれる。
 そんな、雨の多い季節の物語。
 そして、俺の進む奇跡の物語。
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