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窓を見ると、そこには真っ白な世界があった。
小さく感嘆の吐息をもらしつつ、男の子はその大きな瞳を限界まで見開く。眼下に見える白の大陸――否、雲の海は太陽の光に照らされ、まぶしいと感じるほどに白く輝いていた。
その男の子はもう一度、今度は感極まったかのように吐息した。いつもは下から見ている物を、今度は上から見ている。それだけだというのに、印象はガラリと変わった。
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彼は、地上から見る雲があまり好きではなかった。それは、彼が一番嫌いな色が白だからでもある。だけどそれ以上に彼が一番好きな色は青色であり、だからこそ、空の青さを隠してしまう雲の白さが、気に食わなかった。
しかし、今、彼の好悪は変動した。壮大かつ美しい白い雲の海は、彼の無邪気な価値観を逆転させるには充分だったのである。
「どうだい、シロ。『飛行機』という物は、凄いだろう?」
シロを自分の膝に乗せた男が声をかけてくる。その声には若々しさと、静かな力強さと、確かな心強さがあった。その声の主を知っているシロは、その問いかけに対して嬉しさと共に元気よく応える。
「あはは、そうだろうとも。うん、シロを連れてきてよかった。『飛行機』の凄さがわかるんだから、きっとシロは将来大物になるぞぉ」
「もう、あなたったら、何かある度にシロを甘やかすんだから」
少し困ったような声が、男の声よりも右隣から聞こえる。それは男の声と同様に若々しく、それと同時に包み込まれるような温かさと、安らかな優しさを感じさせるような女の声であった。
「いいじゃあないか。いつもは仕事ばっかりで、私は休日でもロクにかまってやれない。
だからこそ、こういう素晴らしい日ぐらいは一緒にいて、シロを喜ばせてあげたいのだよ」
なぁ、と語りかけながら男はシロの小さな頭に大きな手を乗せ、少し乱暴な動きでくしゃくしゃと頭を撫でる。ムズ痒いような、しかしそれ以上に嬉しそうな表情をするシロを見ていた女は、それにつられるかのように微笑みを浮かべていた。
「そうね。これでようやく、何百年と続いていた『西』との対立が終わるのよね」
「あぁ。『魔法』と『科学』――根本から信じるものが違うのだから、対立はある意味当然でもある。けれど、それでいいはずがないからね……ようやく、終わったということかな」
膝の上に乗せられたシロ。空いている真ん中の席。ふと、どちらからか目を合わせ、穏やかに微笑みながらその男女は手を繋いだ。
「……ねぇ、あなた」
「なんだい?」
「この子は……この子達がこれから育っていく世界は、今の世界よりも幸せなものになるかしら。『西』と『東』は争いをやめて、お互いに歩み寄って……でも、本当に皆がわかりあえるのかしら」
それは、という始まりを持つ言葉を男は言おうとして、しかし女は首を振ってそれを遮った。その表情には、少しだけ悲しげな微笑みがある。
「あたしとあなたは分かり合えたけど、ね」
「……そうだね、でも――」
それでも、と希望の観測を続けようとした彼の言葉は途切れた。その要因は、炸裂音で、
次の瞬間には『飛行機』は――歩み寄り始めた両国の歴史は、空を切り裂きながら堕ちて、

耳に心地良い炸裂音がした。要因は極めて簡単。丸めた雑誌という凶器による原始的な殴打。それに伴うものだった。
「いっ――!?」
その殴打の被害者である白髪の少年――シロは当然のごとく付随した痛みに対して跳ね起き、軽くのたうちまわる。
「あら、おはよ。元気なさそうに壁に寄りかかっていたもんだから一発入れたんだけど、その様子だと思っていたより元気余っているみたいね」
対し、殴打の加害者である金髪に縦ロールの少女――コガネは何故か得意げな笑顔で、丸めた雑誌を片手にシロを見下ろしていた。しかも彼女は仁王立ちであった。
そこでシロは気付く。まずい、居眠りをしていた。どれぐらいかはわからないが、彼女の声色に見え隠れする怒気から鑑みて――けっこう寝ていたことは確実だ。
「(これは……もしかしなくともまずい状況……!)」
何故かは言うまでもない。第一に、この金髪の縦ロール少女は不機嫌である。それだけでも少年にとっては軽い死亡フラグではあるが、今回は軽い死亡フラグなんてものでは済まない可能性がある。
おそるおそるとシロは声の主を見上げた。別におそるおそる慎重に見上げたからって事態は好転したりはしないが、とにかく内心でビクビクしながらも彼女を見た。
彼女は笑っていた。そりゃあもうとびっきりに殺人級の笑顔であった。シロもつられて笑った。実に気持ちのいいぐらいに諦観の笑みであった。
「ねぇ、そこのヘタレ」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいはいいから。私ちょっと喉が渇いたんだけど、今仕事で手が離せないのよ」
「食堂まで行ってまいります、はい」
「私はレモンスカッシュね。わかったら返事」
「申し訳ありませんでした」
「よくできました。ほら、さっさと行く」
まるで少女の小間使いでるかのような従順さで少年は頭を下げ、ヘタレ本能に導かれるままにその場を去ってゆく。
少年の姿がしだいに遠ざかり、やがて見えなくなったところでコガネはゆっくりとため息を吐いた。
「……本当に緊張感がないっていうか……」
一応、自分達は矯正という名目で罰を受けている最中である……が、そう思いながらもあながちシロの気持ちはわからないでもない。
「(でも、矯正という名目での罰が……不良グループの監視というのは当てつけなのかしら?)」
誰もいない教室、その窓から見える広場で何十分も前からたむろっている数人のグループを見つめながら、コガネは二度目のため息を吐いた。
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今シロは聞き手に回るしかなかった。
 校舎によって長方形に切り取られた空から暖かい日が舞い込む。風は優しく木を撫で、花を揺らす。まさに小春日和の中庭には生徒達がそれぞれ友人と和気藹々と雑談を楽しんでいる。
 しかし彼の横に座る少女から発せられる不可視のオーラと機関銃の弾のように吐き出される愚痴と悪態の数々は有無を言わさず彼を従わせる力があった。暖かな空間にそぐわない空気が中庭の一部に形成されていた。
 シロは彼女の言葉を聞き、反芻し相槌を打って、左から右へと聞き流す。この行為は今まで何回も経験してきたこととはいえ、長時間付き合うのには一向に慣れはしない。
 今彼女が話しているのは今朝のことだ。
 朝、シロは全力疾走したものの結局朝のホームに間に合わず、空を飛んで先に行ったはずのコガネはというとなぜかシロより後に教室に入ってきた。
 その原因は、その空を飛んだことで教師に見つかりこってり絞られたということであった。
 ただ、いくら彼女でも普通に叱られたら反省するくらいで済んだだろう。そして遅れることもなかったはずだ。ただ、叱る教師が悪かった。ミス=ヒステリア、そう陰で呼ばれる教師に見つかったのだ。そのあだ名の通り少しのことで毎回激しい説教をはじめる。しかも過去の済んだことまで引っ張り出し、グチグチと続けるのだ。下手に言い返せばその説教は加速し手におえなくなる。生徒どころか、一部の若い教師の中には彼女に捕まって授業に遅れた生徒の遅刻を気の毒だからと取り消すことをするくらいである。
 だから彼女は遅れてしまった。ホームが終わる直前まで開放されなかったようで傍目にもやつれて見えた。しかも追い討ちを掛けたのはホーム主任だった。彼は同情などをしない教師だったため、コガネは新学期初日から遅刻欄に名前を書かれてしまった。シロは常習犯なので気にしないが。彼女は自分が原因とはいえ、説教で遅れたのだから大目に見てくれても、という思いがどこかにあったのだろう。
 コガネのミス=ヒステリアに対する愚痴は開始四十分続き収まった。今はホーム主任に対しての罵倒が続いている。これを聞いてもシロ自身に何か得があるわけではない。ただ、これを最後まで聞き流していないと後が怖い。シロは一度だけ無視したことがある。それから一週間彼女の冷たい笑顔が脳裏に焼きついたまま悪夢にうなされた。シロにとってあれはトラウマどころの話ではない。それ以来彼女の愚痴に耳を貸さないことはなくなった。彼女のほうも従順になったわね、とまるで小間使いを得たような雰囲気だった。
 だから今も今までと違わずその愚痴を聞いている。最近は話の流し方も身についてきて、以前よりも疲労感は軽くなってきている。
 決して、慣れてきているわけではないと自分自身に言い訳をする。
 彼女の罵倒が一瞬止まったときシロは、
「はぁ・・・・・・」
 と、ため息をつきながら目を細めた。
 そして息が出終わる前に再び飲み込んだ。が、視線を動かすより先に、
「ため息をつくなんていい度胸してるわね」
 コガネのそんな言葉を耳にしたとき、シロは目の前が真っ白になる感覚を味わった。
 油断していたとはいえ、不覚を取ってしまった。
 ヤバイと思った瞬間、彼はまた新しいトラウマを植え付けられることとなる。


 シロとコガネは何もできずに立っているしかなかった。
 中庭で怒気を含んだ目に引き攣った笑顔を浮かべたコガネと、目の焦点が定まっていない上に体が小刻みに震えているシロを呼びに来たのは生徒会役員と名乗る生徒だった。
 そして今彼らは生徒会室にいる。
 彼らが在学する慶昴(ケイボウ)国立魔法学園において、その管理体制は一般学校と少々異なる部分があった。まずはこの生徒会の存在。教師達と同等の力を持つこの組織は生徒会長を頭として機能している。そして生徒の素行調査や一般雑務などは、ほぼこの生徒会が担っている。俗に言う取締り組だ。また生徒会長はその年の最高学年の成績最優良者であり、今シロ達の前にいる少女だ。シロたちと比べて四、五才は年下のように見える彼女は、黒い長髪と全てを飲み込む闇ような瞳をしていた。
リレー2話
「あなた達の素行は目に余ります」
 年相応の言葉遣いなど微塵も感じられない。シロが感じたのは同じ生徒というよりも教師に近い雰囲気だった。
 なぜ年下の彼女が最高学年にいるのか。それはこの学校が他の学校と違うもう一つの点だ。
 魔法学校の目的は、魔法に対しての知識を得ること、自分の実力を把握すること。そして実力を磨くこと。だから入学や進学システムに違いがある。入学システムは、年齢に関係なく入学試験を受けられるということ。そして進学システムは全てが本人の実力次第という単純明快なものだ。前期後期の二学期制をとり、各学期末のテストで合格点を出せば次の学期から上の学年にあがる。しかし最終学年だけは一年間在学しなければならず、また後期から最終学年に上がった場合、一年過ごせば前期終了時に期間終了となるが、卒業できると扱われるのはその年の後期の終わりとなるため、実質一年半最終学年で過ごすこととなる。
 そして今、シロたちの前には学園史上最年少記録を保持している少女、クロが座っている。
 クロはふと視線を机上に落とす。そこにはシロとコガネの評価プリントがある。
「シロ君。遅刻常習犯。遅刻回数は学園内でもダントツで独走中。成績も留年ギリギリ、と言っても筆記のほうはそこそこなのに、実技が悲惨ね」
 シロはよくこう言われる。『頭の中は真っ白だから知識が入る。魔法のほうは真っ白だから何もできない』と。彼自身それは否定しない。覚えるのは得意だが実行するのは苦手だ。
「前にも注意したはずなんだけどなあ。直す気はないの?」
 上目遣いでこちらを見るクロには愛嬌とは言いがたい別の雰囲気があった。
 シロは一年の後期でも遅刻や成績の注意を受けた。しかしシロ自身はそんなに気にするわけでもなくそのまま生活をしていても追って注意がこないことから無視することにしていた。まさか進級して早々言われるとは思ってもいなかった。でも同時に早めの忠告は生徒会長の優しさも含まれているのかな、とも思った。
「次、コガネさん。あなたも前に二回くらい注意されていたはずよね?」
 クロの視線が横に動き、コガネを捕らえる。
 魔法の行使はセンスが大きな割合を占める。そしてコガネにはそのセンスがあった。たちどころとは行かないまでも短時間の練習で色々な魔法の行使を可能とできるほどの。それが逆に災いした。ある程度のことは大抵すぐ出来てしまうから、習得するまでの過程が存在しなくなる。だから、彼女の実技テストは常にトップクラスだ。しかし筆記において点数は平均に留まる。通常ならば、本を開き、知識を得、それを年頭において技術を習得するのだ。しかしそれが彼女にはない。だから知識が若干欠如する。
 黄金(コガネ)は輝く。その内部の価値はとても大きいものだ。しかし外からのものは反射し、拒んでしまう。それがコガネという人物だった。
 その彼女今までが受けてきた注意は『魔法の使用を極力控えろ』と言うものだった。彼女は癖であるかのように少し遠くのものを取るにも、急がなければいけないとき、その他使えるところでは大概魔法を使う。それ自体、校則で、今朝は正規の手順を踏まない『無詠唱行使』を、しかも校外で行った。手順を踏まなければ失敗したとき魔法行使者には詠唱を行ったときに比べ段違いの反動が帰ってくる。詠唱には安全装置の役割も含まれている。彼女が無詠唱行使を行ったことはミス=ヒステリアには知られていないようだったが、生徒会のほうではその事実も把握しているようだった。
 クロに対峙するコガネの表情がより一層硬くなる。
 クロは真っ直ぐ二人を見つめる。
 すっと腕を上げ、並んで立つ二人の間を指差す。流れるような動作は二人の目を引くものだった。そして彼女の口から澄んだ詠(ウタ)が流れる。その瞬間、シロとコガネの間を何かがすり抜け、後方にある花瓶が砕けた。花瓶が割れた後も、風が通った側の肌がピリピリと痺れる。
 無言で放たれた魔法にシロ達は立ち尽くした。反応できずただ呆然とするしかなかった。そこに言葉にならない圧力があった。脅しとしか取れないその行為で、彼らの発言権はこれで完全に消えうせた。
 実力テストは二種類。教師相手の魔法の確認を行うものと、生徒同士の戦い。共に教師の決めた魔法を使うものだが、後者は4年次以上の者が行うテストだ。人に向けて魔法を打つというのは、当然進んでやるものではないし、また狙いが外れれば大惨事を引き起こす。テストのときも教師が付き添い、防具をつけて行う。それを何の躊躇いもなく狙い打てる彼女には、それ相応の実力が伴っていることを示した。
 黒は闇。何色にも染まらないし染められない。
 彼女は自分でそう言っている。それも彼女の強さの一部かもしれない、とシロは思った。
 そのクロはその長髪を撫で、目を細める。それが彼女の中で何か決まったんだろうか、とシロとコガネは同時に心の中で覚悟した。
「・・・・・・」
 沈黙が続く。引き伸ばされた時間が粘り気のある空気を生み出しているように思えた。
 その沈黙を破ったのはクロだった。ふっと表情を緩め、幾分少女のような笑顔となる。
 そして身構える二人に対し、彼女はこう言い渡した。
「あなた達には矯正という名目で罰を受けてもらいます」
 魔法による脅しにより全てを制限されたシロ達は乾いた笑いすら発することも出来なかった。


ゆっくりリレー小説の罰ゲームを投稿していってね!
手抜き?何をおっしゃって(ry


名前:罰ゲーム総数/罰ゲーム終了数



私:1/0

シャウさん:0/0

香月さん:1/0

春さん:2/0

ベルヘンさん:2/0

亜紗さん:1/0
ホラー小説  ・・・




・罰ゲーム候補
ミクミクダンスでハレ晴れ愉快を作成し、ニコニコにうp
左手でぴかちーを描いてうp
自画像を描いてHPのトップにする
指定されたお題でオリジナル小説を書く
1日でバトン(項目が10以上あるもの)を15以上答える
ニコニコデビュー
「嫌よ」
トランが「一緒に戦って……」とまでいった直後に、コガネの鋭い声が、飛んだ。
「おやおや。少しは考えたらどうなんだい?」
「考える必要なんてないわ」
「全く、君は少しは頭を使うことを学んだほうがいいんじゃないのかい?」
「使う必要があるときは使うわ。でも、それは今じゃない」
どこまでもとぼけた口調のトランと、感情のこもっていない声のコガネ。
「何故? そんなに私が信用ないのかい?」
「信用? あなたの口からそんな台詞が出るなんてね」
「こんなにも誠実に話をしているのに、一体どこが不満なんだい?」
「全てよ」
二人の舌戦が繰り広げられる中、シロはトランが言った「主犯」という台詞を何回も何回も反芻していた。
(――アレは事故だったはずなのに。でも、主犯がいるってことは事故なんかじゃなくって……。でも別に犯行声明も何もなかったって……原因不明の事故だったって……。でも、もし事故じゃなかったとしたら……今頃……でも、怪しい点は別になかった、あくまで原因不明の事故だったって……。でも、その主犯とやらが事故を装っていたのなら……)
堂々巡りの思考の渦にいたシロは、トランとコガネの事に注意を払っている余裕などなかった。
いや、意識の端では気にかけていただけでもマシなほうなのかもしれない。シロはこの部屋の中にもう一人の人物がいることを、すっかり忘れ去っていた。
「あ、あの、シロさん。……大丈夫ですか?」
「うわぁァァ!?」
突然、誰かに両の手をさわられて、シロは思わず叫び声を上げてしまった。
「あ、あの、シロさん?」
「ァァァぁ……あ?」
シロが我に返ると、目の前にやや困った表情のバイオレットがいた。
彼女の手が、そっと自分の両の手に添えられているのを見たシロが、再び叫び声を上げて飛び退る。
「うわぁァァ!?」
そしてそれきり、部屋の中は静まり返った。
―――――――― カチッ、カチッ、カチッ。時計の針の音が聞こえてくる以外、物音ひとつしない。
バイオレットが悲しそうな顔で見つめてきている。
なんとなく視線を感じて、顔をゆっくりと横に向ける。
そこには、先ほどまで激しく舌戦を繰り広げていた二人が、揃って奇妙なものを見るかのような目付きて、こちらを見つめていた。
「「「「…………………………。」」」」
誰も、何も言わない。誰もが、何もいえない。そんな微妙な空気が流れる。

―――――――― ぐぅーーーーっ。

そんな雰囲気をものともせずに、シロの腹の虫が鳴った。
その音を合図にしたかのように、その場の雰囲気がふっと緩む。
「全く。シロったら、少しは場の空気って物を読んでほしいわね」
「まぁ生理現象なんだから、仕方がないといえなくはないがねぇ」
「そんな。シロさんが悪いんじゃありません」
失笑と、苦笑と、擁護と。それぞれの言葉を聴きながらも、シロは恥ずかしさのあまり顔を伏せたまま上げられなかった。
「はっ。何寝ぼけたこと言ってんの。鳴ったのはシロのお腹なのよ?」
「まぁまぁ、二人とも。そんなことで言い合っていると、余計にシロ君がいたたまれなくなるんじゃないのかな」
「あ、……ゴメンなさい、シロさん」
(……あぁ、なんだろ、この状況は。どうしてこんなことになったんだろう)
シロはここにきてから幾度となく考えたことについて、もう一度考考えざるを得なかった。
何故、自分はこんなところにいるのだろう。何故、こんなにまでしていなければならないのだろう。
(はぁ……なにやってんだろ、俺は。どうしてこの……えーっと、この子の家まで付いてきちゃったんだろう)
ぼんやりと考えをめぐらすシロの周囲では、今度はコガネが批判してバイオレットが擁護する、という奇妙な舌戦が続いていた。
(大体、いまさらあの事故がどうだとかなんてどうでもいいじゃないか。犯人がいようといまいと、両親が帰ってくるわけじゃないし)
そう思った瞬間を見計らっていたかのようなタイミングで、コガネの声がシロの意識に触れる。
「はっ。時間の無駄ね。シロ、帰るわよ」
「…………だな」
半ば無意識でコガネに賛同したシロは、考えるよりも先に、すっと食卓から立ち上がった。
そんなシロの様子を、バイオレットはただ静かに見つめるのみであった。悲しさも寂しさも、何の感情も感じさせないような表情で。
だがしかし、シロはその不自然な無表情には、一切気付かなかった。
「帰ろう、コガネ」
シロの声に、コガネがまるで勝ち誇ったかのような表情で席を立つ。
「おやおや、そんなに私の作った料理は食べたくないのかな」
「当たり前じゃない」
「ふむ。なるほど。……だがしかし、これだけは忘れないでいてくれ」
そこで一旦言葉を切ったトランは、コガネの両目を見つめながら、こう続けた。
「私は君たちのことが、仲間として、是非欲しいんだ」

 桜並木を目新しい学生服に身を包んだ少年少女がそれぞれ、2,3人で肩を並べながら歩いている。
 その顔は新しい生活に若干の緊張と大きな期待があることが見て取れた。
 ただし、1人の少年を除いて。
「眠い……」
 少年はそう呟くと、大きく欠伸をした。
 その姿にはとても周りの生徒と同じ新入生だとは思えない雰囲気があった。
「相変わらず、貴方はマイナスオーラ全快ねぇ」
 突然にかけられた声に驚くこともなく、少年は気怠そうに振り返った。
 そこに居たのは尊大な態度を隠すどころか堂々と見せつける金色の縦ロールの少女だった。
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「アンタこそ、相変わらず態度がでかいな」
 少年がそう言うと、少女は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「何度も言うけれど、これは思い上がりではなく自他共々に認める私と貴方の違いを考慮した上での正当な自信よ」
「何度も言うけど、そういうのが態度がでかいって言うんだけどな」
 二人を知る者にとっては相変わらずな、知らない者にとっては仲がいいのか悪いのか判断しかねるやり取りだった。
「ところで、貴方は明日の自己紹介はどうするつもり?」
 少女はいつもの社交辞令のような益体のない話をやめ、多少は気になっていたことを聞いた。
「どうするつもり・・・っていうと?」
「逃げるのか隠れるのかすると思っていたのだけど?」
「おいおい、俺がそんなことをすると思ってるのか」
 少年はさも心外だと言わんばかりに肩をすくめる。
「え、出るつもりなの?」
 そんな少年の態度が予想外たっだのか少女は驚きの声をあげる。
 少女の言動に少年は沈黙し、少女もそれに倣う。
「……いや、別に絶対に魔法を使わなくちゃいけないだなんて規則があるわけじゃあるまいし」
 少女の自分に対する認識に若干の不安を覚えながら少年は言った。
「でも、どっちにしても貴方が嬉々として参加してる姿が浮かばないんだけど」
「そりゃあ、嫌々ながら参加するからな」
 少年はそう言うと、溜息を吐いた。
 冗談でも比喩でもなく本気で嫌そうだった。
「そうそう、貴方は嫌なことから常に逃げてそうじゃない」
 少女は少年を指差しながら言った。
 特に重い雰囲気を出すわけでもなく平然と。
「……お前は今まで俺の何を見てきたんだ?」
「ヘタレなところ」
 即答な上に容赦なしだった。
 あまりに即座にそう言われたために少年は一瞬、素で固まってしまった。
「……いや、何か他にもあるだろう」
「今にも自殺しそうなところ?」
 今度も即答で容赦がなかった。
「……いや、俺はそんな風に見えるのか?」
 少年は一度、自分がどんな印象なのかを確認した方がいいという判断の元、質問してみた。
「えぇ、常日頃から死にたいオーラをガンガン発してるじゃない」
 何を今更と言わんばかりに少女は笑顔で言った。
 少年はそんな少女を見るのが辛くなり、空を少しだけ見た後、周りを見る。
 一瞬だけ思考した後で腕に嵌めている腕時計を見る。
「ところで、そろそろ急がないといい加減に遅刻するな。これ」
 と、少年のその言葉に少女はピクリと反応する。
 少女も周りを見てから鞄から携帯を取り出して時間を確認する。
「……そういうことは早く言ってくれない?」
「え、俺がこれって悪いの?」
 少年は少女の理不尽な反応に戸惑った。
「何を言ってるの貴方は」
 どう控え目に見ても、悪いのはお互い様であるにも関わらずこの少女は尊大な態度だった。
 少年はどう育ったらここまで不遜な態度を持てるのかと思う。
 思うだけで口には出さないが。
「ごめんなさい」
 気が付けば、少年は謝っていた。
 少女の態度を見ていたらなんとなく、自分が悪いような気がしてきたからだ。
「そうそう、やっぱり悪いことをしたら謝る精神が大切よね」
 その態度を見て、少女は頷きながら言った。
 少年はやはりおかしいとは思ったが、言っても無駄なのは分かってるので言わないことにした。
「じゃあ、私は先に行ってるからね」
 少女はそれだけ言うと、思いっきり跳躍する。
 そのまま、少女の身体は家一軒を軽々と飛び越えるほどの飛翔をし、そのまま真っ直ぐに進んでいった。
「何であいつは無詠唱であんなに能力を出せ……白か」
 飛んでいく少女を見送りながら、少年は今見えたものを思い出し、呟く。
 もし、これが少女にバレたら何らかの手段で危害が加えられていただろう。
「……ていうか、俺も急がねぇと駄目だろ」
 ふと、自分の置かれた状況を思い出して全力で走り出した。
 これから起きる事も知らないままに……。
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