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 コガネの意識がシロから一瞬黒服に移る。
 その一瞬を逃さず膨大な魔力を伴った"ベリアル"の魔法がコガネに向けて放たれ……、コガネがそれに気付くことは無かった。

 トランが叫ぶ
「コガネ君!ここを通りたければ私達を倒して行け!」
 同時にトランはありったけの魔力で魔法弾を形成し頭上に弾の壁を作る。
 コガネに向けて飛ばしはしない。秒速十メートルを超える速度で慣性を無視して飛ぶコガネに対して即座に狙いを付けることなんか不可能だ。
 そのまま直進してきたコガネは壁の寸前ですとんと下に落ち、まずは一番近くにいる黒服を狙う。
 必死でコガネを目で追っていた黒服はその時になって初めてトランの指示の理由を把握することになる。
『十メートル程度の距離はもう彼女の射程範囲内だ。彼女がどこを向いているなど考える前にシールドの呪文を詠唱し、次の瞬間に攻撃されても展開できるように準備しておけ。』
 もはや呪文は間に合わないと銃を構えなおしている間、コガネの拳が顔にめり込んでいた。

「ベノムに話を聞いてなければ最初にやられていたのは私だったかもしれないな……。」
 加減速の手間を必要とせず文字通り空中を自由自在に、しかも高速で飛び回る。
 その話を聞いたときトランも何かの間違いかと思ってしまった。
 そんな急加速に人間の肉体は耐えられるようにできていない、カントレイルだってここまで極端な方向転換ができたという記録は無かった。
 ……だがコガネはそれをやっている。
 未知の魔法によるものか、それとも人知を超えた計算能力で内臓への負荷を軽減しているのか、理由はともかくコガネには慣性の法則は通用しない。……彼女と対するならばそう思わなければならない。

 コガネのでたらめさを思い知らされた他の黒服たちが一斉にシールドの呪文を唱え始める。
 黒服を殴った反動で軽く浮き上がったコガネは滑らかに視線を動かし、他の獲物の位置を把握する。
『左右に黒服が2人と1人、少し離れて前の方にあの男と女。……別に誰からって選ぶ必要なんか無いじゃない。全員狙えばいいだけよ!』
 コガネは重力に引かれて落ちることなくゆっくり浮き上がりながら両手の平を頭上に掲げ、無数の光弾を上空に射出する。
 発射した光弾は方向転換し、それぞれ敵へと向かって落ちてくる。
 ……はずだった。

 コガネが上を見上げると、トランの作った弾の壁がコガネを覆う形に配置を変えていた。あれが光弾を消し去った……?
「やれやれ、特別な訓練は受けていないと聞いていたのだが……とんでもないな。
 高速で飛び回れるどころか思考速度も尋常じゃない。もしこの光弾を直線的に放っていたら間に合わなかった……君の勝ちだったよ。」
 周囲では黒服とバイオレットが銃を構えている。でも今の私ならば気にする必要はない。
 たとえこの前の毒使いがいても問題なく防ぐことができる、ここに私を脅かせるだけの力を持った人間はいない。そう直感が告げている。
「あれは魔法を無効化する力を持った特殊な魔法弾でね。作る際に込めた魔力と同程度の魔力を消し去ることができる。」
「それじゃ、さっきのをもう一回くらいが限界かしら?」
 黒服の殺気が膨れ上がるが、トランはそれを手で制する。
「……さすが。どうやらそのようだ。
 しかも私はあれに全ての魔力を費やしてしまっているが、コガネ君はまだ余裕があるようだ。そこまで読み取られては絡め手も通じそうにない、この戦いは私達の負けだ。」
 負けといいながらトランには奇妙な余裕が見られる……。
 だがバイオレットは銃をしまいトランは上空に展開した魔法弾を解除した。
 黒服たちはまだ銃を構えたままだが、殺気よりも動揺が強い。
 他に周囲に奴らの味方と思われる気配は無い。
「その余裕が気に入らないけど……、裏でこそこそやってるってわけでも無いようね。」
 ようやく黒服も戦闘が終わったと悟ったのか先ほどまで唱えていた呪文もキャンセルする。
 空気が安穏としたものに変わっていく。
「それで、どうして私たちが襲われたのかいまいち理由が分からないのだが、教えてくれないかな?」
 言われてコガネは思い起こそうとするが……なにも出てこない。
「あー……、昨日のことがむかついたから思わずやっちゃったみたい。」
 なぜか、最初の怒りが嘘のように思えるくらい今は気分がいい。
 暴れてすっきりしたというのもあるのだろうが、怒っていた原因を忘れてしまったような、そんな感じ。
「……校外で暴れたと生徒会に知られればまたなにかしらの罰を受けることになるだろう。もう少し周りを気にした方がよいのではないか?」
「いらないお世話よ」



 なんとなく細かいところまで気がまわらない。
 大切な何かを忘れてしまっている気がする。
 やつらと別れてから、とてつもない失敗を犯したような、そんな不安がどんどん大きくなっていく。
 こんなときはたいてい"あいつ"にあたる事で解消してきた……

 あれ?
 あいつって、誰?
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銀の音色が漆黒を纏って歩く桜道
光の色した影ふたつ 周りは酷く騒がしい

強く輝く太陽に踏み付けられるクローバー
駆け回り光るタンポポは遥かに高く飛んでいく

歯車が宙に浮き
異形の和音が弾け飛ぶ

降り注ぐ太陽の光
銀墨の影が揺らめく
火を噴く菫
同色音符
輝く闇の小さな黒曜石

眠って燻る火種は
今は まだ何も知らない
青い空の雲の下の
羽が生えた機械仕掛けの街で
轟音と共に爆風が吹き荒れた。
砂埃が舞い上がり一気に視界を奪っていく。
「運が良いのか悪いのか!マッタクよぉ」
ベリアルが苦々しげに吐き捨てる。
今彼らが考えていることは、少なくとも今ここで仲間が現れるはずは無い、ということだ。そして、ここの魔法障壁をぶち破って進入するほどの相手に構っていられない。
視界が遮られる前にベノムに視線で合図する。ベノムが僅かに頷こうとしたところで彼女の姿が影になった。風に乗って飛び交う砂粒が頬に当たりチクチクと痛む。
「あなたたちの目的は?」
そして濛々と舞う粉塵の向こうからまだ幼さの残る声で一つの問いかけがあった。ぼんやりとすら浮かばない影から、爆音の余韻が残っているとは想像できないほどにはっきりとした声が聞こえた。
しかし埃が視界を遮り、人を影としている少しの間だ。徐々に人工的な風の流れが生まれ、まとまっていく。
「カワイコちゃんのお相手をしてたのさ」
そう呟くとベリアルはベノムと共に視界が晴れ切る前に退去の道を選んだ。



遠くの轟音と共に数瞬の静寂が訪れた。
途切れることなく打ち出されていた言葉が彼女の口の中に留まった。目の前の少女はまるで素晴らしい教訓のように目をキラキラと輝かせながら聞いていたが、彼女が一度口を噤んだのを口を半開きにして不思議そうに見ていた。
そしてまたしゃべり始めようとして、ふと、ミス=ヒステリアと呼ばれるその教師は先ほどの少女の話を思い出す。飛び込んできたときは必死の形相で説明をしていた。今はそんなことも忘れているような顔をしているが。確かにさっきの音は鍛錬場の方角から聞こえたものだ。となると、彼女が駆け込んできたことと関係があるのだろうか、と思う。
だから、そのことが少し気になった。少しだけでも、気になってしまった。
「鍛錬場に行くわよ。ついて来なさい」
「ふええ!?なんで鍛錬場なんかになんで??」
彼女はそれ以上何も言わずに歩き出した。後ろを付いてくる少女はやはり自分がここに来た理由を忘れている。ミス=ヒステリアがコツコツと足音を響かせながら鍛錬場に向かう。
大多数の生徒が彼女を嫌うというのは、生徒会長ですら、その例外ではない。



轟音は体全体に痺れと痛みを残した。
そこからシロ、コガネ、ルリが立ち直るには空気が澄んでからも幾分の時間がかかった。とっさの対応もできず、目には埃が入り、鼓膜は未だに痺れたままだ。そして未だ立ち上がれない彼らの目の前に立っているのは、黒髪を一切乱さずに彼らを見下ろすクロであった。といっても、目線の高さはクロの方が"若干"高いくらいなのだが。
「あなたたちの'お仕事'はそこに倒れてた彼らを"見張る"こと、でしたよね?」
シロたちの返答を待たずに続ける。
「そして、今あなたたちはその任務を遂行できていない」
若干回復の早かったコガネが周りを見渡して、息を呑んだ。そこに倒れているはずの不良グループ数人の姿がなかったからだ。
「心配しなくても彼らは別の場所に運んであるから。でも言われたこともできないのは問題ですよ?現に監視という点では、私が言うまで彼らがいないことに気づけなかった」
シロとコガネの視線がぶつかった。二人には今同じような予感が走っている。つまり、任務を遂行できていないからまた何か別の罰を課する、といわれるのではないか、ということだ。
「何か言うことは?」
「罰を失敗した罰を追加するのか?」
クロの質問にシロがそう答えた瞬間、コガネの方からは突き刺さるような視線を感じた。クロは全く表情を変えずに答える。
「そんなに罰が欲しいですか?」
シロが『しまった』と思ったのと同時に、はっとしたようにクロは視線を鍛錬場入り口に向ける。
「じゃあ、今すぐ罰を受けてもらいましょう。私もちょうどスケープゴートが欲しいと思っていたところなんです」
そして彼が前述を否定するより早く、少し早口でクロは言葉を放った。クロの視線を追ってシロたちが見るとそこには少女を連れた、嫌われ教師が立っていた。
「この状況はどういうこと?」
不可視のできれば忌避したいオーラを放ちつつ、にらみ付けてくる彼女からシロたちは視線を離せない。
「いや、これはその……」
「だまらっしゃい!」
このあまりにも理不尽なコトの運びにはまだ慣れが必要だな、とシロは思って、すでに自分がこの立場に甘んじていることに気づいた。コガネのほうからも負のオーラを感じるシロとしてはこの状況は何が何でも抜け出したいのだが、そこまでの実力が無いことが悔やまれる。
クロは、シロたちがヒステリアの方を向いている間に逃げ出したようだった。
ヒステリアが目の前に立つ。これからが本当の地獄の始まりだ。



蛍光灯の光が淡く照らす室内には、大きな筋肉質の男と小さな少女が向かい合っている。
「この学園内にも東西亀裂が未だ残っています。表沙汰に言えるものではありませんが。それと、ベノムさん、今日の戦闘の原因ですが、彼女は東側です。対してコガネさんは西に寄りすぎています」
「ふーん」
「この亀裂と今回の戦闘は数年前の東西融和交渉の決裂に関係が無いとは言い切れません。後ほどシロ君、コガネさんに話しを聞く予定です。」
「へー」
「……」
話を続けようとする少女の顔に苛立ちが浮かぶ。
「聞いてます?」
「うん、一応ね。左から聞いて右に流してるだけだよ。気にしないで大丈夫。まあそれよりもクロちゃん。ちょっと言っておきたいことがあってね」
「……なんでしょうか?」
男はもったいぶるように、そしてクロの反応を見るように視線を落とす。
「物を壊しすぎ」
「っ!」
指摘は最小限かつ的確だった。それが事実であるクロは余計に言い返せない。男は指を折りながら言う。
「花瓶に自販機とかその他諸々。諸々は小さいものだからひとまず置いといて。極めつけは鍛錬場の天井をぶち破ったことかな?」
眼前の大きな男の顔は少年のような意地悪な顔をしていた。
少女はいつもは見せないような必死の抗議をする。
「必要なことだったんです!」
「必要だったから壊したと?」
「……自販機を除いて」
「うん、素直なことはいいことだよ。花瓶と天井の説明は?」
「天井についてはコガネさんを止めないと危険だったからです。あくまで彼女たちの仕事は監視です。それにあの規模の魔法を使ったら倒れていた生徒にも被害が及んでいました。しかし急いで駆けつけたものですから詠唱からの破壊の他に対応を取ることができませんでした。次からは爆薬で打ち抜こうかと思っています。」
淡々と続けていく彼女に男は口を挟みはしないが、彼女のずれた発言には少し繭を顰めた。
「冗談です。気にしないでください。ベノムさんの他にもう一人男がいました。彼女の監視役の人に追いかけさせましたがあっさり振り切られました」
「間に合わなかったのは仕方が無い。うん、十分だよ。男の方はこっちで捜してみるよ」
そう言いながら男はワシワシとクロの頭をなでる。
なでる。
なでる。
彼女が嫌そうな顔をしても一向に止める気配が無い。呼吸が数往復したところでクロが口を挟む。
「……そろそろ止めてもらえませんか?」
「減るものじゃないから大丈夫」
「その言葉は前にも聞いた気がします。そろそろ私の堪忍袋の緒が切れそうなのですが?」
それを聞いてやっと、しかし名残惜しそうに男は手を離した。顔はまだにやけたままだが。
「それは怖いね。じゃ、ついでに花瓶の件を聞こうか?」
「分かってて聞いてるんですよね?花瓶はステキな贈り物でしたよ……」
そこで一旦言葉を切る。さっきのやりとりとは違い、すでに二人の顔に表情は無い。ひどく真剣な視線のぶつかりあいになる。ぴりぴりした空気が渦巻く中、男が視線で発言を促す。
「……あれには盗聴器が入っていたんですから」
針のような沈黙と残る問題は、まだ山積のようだ。

二次創作や短編を置いています。

妹紅と慧音

スプリングガール 秋と春、落下と跳躍  New

ミステリ企画「ある館のお話」
序章

第1章 冗談日和

第2章 幻想休息

第3章 少女領域

☆キャラクター


 6月は雨が降る。
 他の季節にも降るが、この季節は異常に多い。
 そんな6月に、俺はある女の子に出会った。
 女の子は言った「匿ってください」と。
 それだけで俺は自分の意思に関わらず不可思議な出来事に巻き込まれる。
 そんな、雨の多い季節の物語。
 そして、俺の進む奇跡の物語。
☆ルール
・プロローグとエピローグ以外は安価で進行します。ただし、全部は聞けない可能性があります。スク水でナースで学生で猫耳で巫女で(ry なんて妄想を送ってくる人はいないと思いますが、念のため。
・1話につき一週間以内で更新。安価がない場合は勝手に書きます。
・文字数は選択肢発生かいいところで区切る予定なので、1話ごとにかなり違います。
・選択肢以外のものは無効になります。
・感想を送るのは自由です。むしろ、推奨です。さらに言えば送って欲しいです。寂しいです。
・終始こんな感じです。生理的に無理だと思った人は見ない方が精神衛生上いいと思います。
・少し自分でもノリがおかしいと思いますが、気にしないで下さい。仕様です。
・最低でも10話以上はやりたい。50話・・・さすがに無理かな(何
・隠し要素として好感度が設定されてます。


プロローグ:雨の降る日


6月4日:雨が降る


☆キャラクター

・主人公
倒れていた少女を家にお持ち帰りした変態
その実態は好青年・・・ではない。確実に。

・智代
長い紫色の髪の人。
それなりにモテそうな容姿をしているらしい。
学校では腫れ物のような扱いを受けている。
悪魔を名乗る人と出会ったことがあるらしい。

・死んでいた少女
どう考えても生きてます。本当に(ry
詳細不明

☆その他
「社会的体験による……?」
 空中での不自然な静止からゆるりとした速度で下降し、地面に下ろされたシロは呟くようにしてその単語を繰り返す。
 『社会的体験による不安定要素の安定化実験体』――ベノムは先ほど、そう言った。
 『Wobniar EhT RevO』プロジェクトThe 3rdとも言っていた。
 ……誰のことを? シロはそう思うことで、現実を誤魔化す方向へと誘おうとする。
 不都合なことが起こったりした場合に、シロはよくそうやって真実から目を背けようとしてきた。 彼の今までの無気力さは、それによって確立されたものと言ってもいい。
 だが、今回はそれができなかった。 目を逸らそうとしても、シロの視線はこちらへと高速で接近してくる見覚えのある少女に釘付けになっていた。
「えぇ。 不安定要素というのは、ファースト……ヒルグの場合に見られた、心の脆さのことよ」
 相変わらず冷淡な声色で、ベノムが答えを返してくる。 その目はあと十数秒ほどでこちらへと接触してくるであろう金髪の少女の存在を捉えて離さないままだったが、その表情には余裕――否、さらに言えば嬉々とした感情すらも浮かべていた。
 そして上機嫌な彼女は、以前の様子からは考えられないほどに饒舌だった。
「ファーストは幼い時から軍事施設に入れられ、徹底的な訓練を施された。 早朝に起床、昼になるまでは身体能力面を中心としたトレーニング、栄養価だけは完璧な食事をたっぷりと摂ったら午後にはフライトの練習、夕食は昼とまったく代わり映えのしないモノを摂らされて、深夜に至るまで人体実験……家畜以下の日々、これがファーストの現実だった。
まぁ、精神が壊れてしまうのは当然ね。 むしろ、ファーストはよく持った方よ……最終的には家庭を作って、自分の子供だって為したのだから、ほんと、恐れ入るわ」
 そう言って、一瞬だけこちらへと向けられたベノムの視線には、以前とは違って少しばかりの感情――同情というのが一番近いだろうか、そんな心の動きが見られた。
「ファーストの最大の失敗、それを研究者達は何とか克服できないものかと考えた。
その過程で私やバイオレットのようなセカンドが大量生産されて……ほぼ同数の失敗作が大量放棄されたわ。 まるでパーティの後に出される、吐き気を催すゴミ屑みたいにね。
その甲斐もあってか技術は進歩して、サードの製作段階である提案が為された」
 それが、『社会的体験による不安定要素の安定化』なのだと、ベノムは言う。
「彼ら曰く、社会において人は一人では生きられない。 他人と関わることなしに、生活していくことなんてまず不可能。 さらに言えば、他者の存在は時に自分を直接支えてくれる存在にもなる。 つまり『絆』を持たせることによって、彼らはサードの精神面を補強できないかと考えた。 故に、研究者の一人……その提案をした者と、その恋人だった者が当時まだ赤ん坊でしかなかったサードを引き取って、親として育て上げ、あたかも普通の人間の人生を歩ませるかのごとく、この学園に入学させた」
 シロの頭の中で、コガネとの出会いが思い出される。
 シロの頭の中で、コガネと過ごした幼き日々が思い出される。
 シロの頭の中で――彼女の、心からの笑顔が思い出される。
 心ここにあらず、という様子で呆然としていたシロを見て何を勘違いしたのか、ベノムは無垢な微笑みを浮かべながら、姉が弟を諭すかのように優しい声で言った。
「大丈夫よ。 あなたは、普通の人間でしかない。 ……ファーストの子である以上はその魔力を受け継いでいるとはいえ、それも未だに開花する様子を見せない。 あなたは、本当に何の変哲もない人間なのよ」
 それは本当に優しい声で、しかし同時にそれは、シロの運命に対する無力さを嘲笑うかのようにも聞こえてしまって、
 シロは、心の底から絶叫した。

 コガネは高速で空を飛んでいた。
 何のことはない。 空など常日頃から魔法によって飛んでいる。 翼などなくとも、コガネの魔法はそれを可能にする。 空を飛ぶというのは、コガネにとっては呼吸をするかのごとく、容易いことであった。
 だが彼女は今、その常日頃からも考え付かないような超高速で空を飛行し、地上を走る車を先ほどまで追跡し、なおかつそうしながらもその車に向かって魔法による攻撃を加えていた。
 はっきり言って、それは人間業ではなかった。 いや、魔法というのは元々人間離れしている存在ではあるが、それでも人間が扱うものではある以上、限界は存在している。
飛行にしたって、せいぜい早くて自転車で走るぐらいのスピードしか出せない。 はず。
 だというのに、コガネはその限界を一回りどころか二回りは超越していた。 なおかつ、鉄の塊を吹き飛ばしうるほどの威力の高い魔法攻撃を、未だにかなり離れていた位置から、スナイパーが何百メートル先の対象物を狙撃するかのような感覚で、正確に当てた。
 もはやそれは、神業とすら言えることであるにもかかわらず、コガネは自身がした行為に何ら疑問を覚えていなかった。 それぐらいに必死というのもあるが――何よりも、感情の暴走によって、彼女の思考能力は落ちていた。
 でなければいくらなんでも、シロが乗っている車を全力でぶち壊そうとはしない。
……はずである。
「(許さない)」
 烈火のごとき怒りが、彼女を突き動かす。
 その要因があのヘタレ幼馴染であることを指摘されれば、普段の彼女はブチ切れてそれを全力否定するのだろうが、実際にはズバリ言って、コガネの怒りの原動力はシロのこと、彼を誘拐されたことなのであった。
「(許さない)」
 昨日の夜から、おかしいとは思っていた。 あのトランという奴は初対面から胡散臭さ大爆発だったし、バイオレットとかいう胸の大きい(コガネにとってはそれもムカツクことだった)あの女も普通の気弱な少女の体ではあったが、トランの身内ならば本心は怪しいものだ。 なにより、学園の窓から校門前でシロが連れ去られた際に、彼女らしき人影を目撃していたコガネとしては、心象は最悪になっていた。
「(許さない)」
 怪しいと思いながらも深くは追求しなかった自分もそうだが、何よりも。
 シロを手に入れるためだけに彼に近づき、その心を踏みにじった形で裏切った彼らは、
「(――ブチ殺してやるわ)」
 コガネの激情が、彼女をさらに加速させる。
 それに費やされる膨大な魔力。 それは人間が所有できる限度を遥かに超え、なおかつ制御を見誤れば一瞬にして体中の肉がひしゃげ、骨が潰れ砕かれ、臓物が飛散しかねないような状況であるにもかかわらず、コガネはそんな危機に自分が直面しているなどということは、夢にも思わない。
 それもそのはずで、彼女は体に何ら不調を感じていないどころか、むしろ普段よりも調子がいいとさえ感じていたのである。
 そんな、タガが外れた彼女の目に映るのは、地上からこちらを迎撃しようとして構えている黒服の連中であった。

 黒塗りの車に乱暴にぶち込まれて、最初に聞いたのは聞き慣れた変態の声だった。
「やあ、昨日ぶりだね。シロ君」
「トラン……」
 睨んだだろう。だけどこいつはいつも通り澄ましている。
 一体何なんだと言いかけたのを、エンジンの音に止められた。
「急げ。コガネ君が飛んでくるぞ」
 大の大人の大男に指示するトラン。大男は大男で黙ってそれに従っている。ただの学生だろ? 一体こいつは……。
「何か言いたい事が沢山ありそうな顔してるけど、生憎こっちにも時間がなくてね。彼女を撒ける気がしないから要点だけ言おう。君のお父さんの話を聞きたくないかい?」
 うるさいエンジンの音、超高速で過ぎていく風景、怪しい男たち、父親の話……。
「何で……」
 ――――変だ。変だ、何かが変だ。
「何で、親父の話なんだよ! 准将ってなんだよ! 空軍ってなんだよ! 親父はなあ、外交官だったんだぞ! 西と東の調停のために、毎日あっち行ったりこっち行ったりしてたんだぞ!」
 ――――いや、それは本当に調停のためか?
「勉強しなくてもいいのに、自分で空飛べるのに、一杯勉強して、飛行機の免許取ったって昔何回も聞かされて……」
 ――――勉強しなくていいのなら、何のためだ?
「…………それに、軍服なんて、見た事ないぞ!」
 ――――そうだ、見た事ない。だから、空軍なんて関係ない。
 叩きつける様に吐き出して、返ってきたのは大男たちの冷笑と時速100キロのエンジンの喚き声だった。

「ルミネス海峡での紛争が終わったのが20年前。イディア砂漠、ハーレン密林地帯での紛争、ロムド市街解放戦が終わったのが21年前。22、23年前には10の紛争と7つの戦闘を、24、25年前の2年間は小規模東西大戦とも言えるイース州解放戦を」
 何がおかしい! と叫びそうになったのを、トランの歴史の授業が歯止めになった。
「この5年間、この実験都市周辺で起こったほとんどの争い事を制してきたのは、いつもある2つの兵器だった。それは――」
「それが親父だって言うのかよ!」
 両脇に控えている大男に手首を掴まれた。反射的に手を上げていた。
「座りなさい」
 機関銃を構えたベノム、両サイドに大男。感情的になった頭に逆らってどっかと座り込む。トランのため息が聞こえた気がした。
「それは、1つが純白の戦闘機。機関銃もミサイルも爆撃もない、ただ速く、華麗に飛ぶ事だけを追求された機体だ。西の最高の魔法使いを乗せた時、ただ華麗なだけのこの飛行機は戦闘機として『カントレイル』と呼ばれていた。東の凄腕パイロットたちはその5年間で、カントレイルにたったの13回しか、かすり傷を与える事が出来なかったらしい」
「そのパイロットが親父だって言うのか!」
 今度は手を上げなかった。ただ、前の席にいるトランの後ろ頭を睨むしか出来なかった。
「このカントレイルのパイロットは、ベノムの親戚なんだ」
 訝しげなワードがトランの口から飛び出した。
 ――――親父と、ベノムが親戚?
「人間の体には設計図が組み込まれている。生まれてくる前に設計図に手を加えて自由にデザインした人間を作ろうというプロジェクトがあるんだ。コントロールド・ヒューマン、デザイナー・ベビー、ネクスト・パーソンとか呼ばれているけど、私たちはこう呼んでいる」
「『WETRO』プロジェクト」
 トランの独白にベノムが口を挟んだ。
「カントレイルのパイロットは運動能力だけ見ると究極的だった。生まれた後も軍事施設で徹底的に鍛えられていた。文字の読み書きなんて最低限しか習わなかったそうだ」
 ――――親父がそんな人だったなんて、一度も、これっぽっちも知らない。何か、変だ。
「何より、心が脆かった。出撃前にはいつも薬で誤魔化していたそうだけど、毎回自分の手で何人も葬っているのがショックで、最後には墜落してしまった」
 ――――違う。これは親父の話じゃない?
「その次世代がベノムだ。ウェトロプロジェクトは第2世代として、ベノムのような子を何人も作った。多くは初代と同じように発狂して若くに亡くなってしまったが、ベノムは無事生き延びた。バイオレットと共にね」
 ――――こいつは何が言いたいんだ? 親父の話じゃないのか!
「ぅ……」
 膝が痛い。無意識に、自分で殴っていたみたいだ。どうかしてる。
 振り返りもせず、トランはフ、と鼻で笑っていた。エンジンの騒ぎ声が耳障りだった。
「話を変えようか。この5年間の戦闘の度に現れた、もう1つの兵器はオーディショナルファクターと呼ばれている、人間大の大きさ、牛の頭、魚の鱗、蛇の尻尾、狼の足、猿の腕を持ったキメラだ」
「は……?」
 ――――こいつは何を言ってるんだ?
「そんな、御伽噺じゃあるまいし」
 ――――ふざけてる。そんなものがいたら、とっくにニュースになってる。
 はは、は。乾いた笑いがこぼれた。こいつら、どうかしてる。こんな奴らに付き合ってられない。もうちょっと、もうちょっと我慢していたら、きっとコガネが助けに来てくれる。
「正確には、それは本体を覆う鎧であり、剣だった。体を覆った鱗は鋼のように硬く、彼も魔法を使えたから銃弾も砲弾も彼に傷を付けれなかった。大地を走る彼は鳥よりも速く、刀より鋭い爪で次々と地上の敵を屠っていった」
 ――――作り話だ。そうじゃなかったら宗教だ。こいつら、頭がイカれてる。
「その戦績は彼をより付加的なものにしていった。動物も、機械も混ぜこぜにくっつけていって、キメラなんて呼び方はもう相応しくない、空飛ぶ化け物、オーディショナルファクターが生まれた」
 ――――よせよ。もう、いいって。それ以上は聞きたくない。
「これが鎧と言っても外科的な処置も沢山行われたらしい。要するに、本当に体と引っ付いたものが沢山あったと言う事だ。当時の実験資料によると、まともな人間では耐えられないショック値と体内電流値の結果が残っている。心無い研究者の中には、これはもう人間ではないと言う奴もいたらしい」
 ――――やめろ。やめてくれ。
「最終的に、彼は戦闘に出られないほどの傷を負って、晴れて普通の人間の体に戻されたんだが、無惨な手術痕を魔法で隠し通した生涯を送ったらしい」
「もうやめてくれ!」
 両手一杯で自分の膝を叩いた。間髪いれずにベノムの銃口を額に押し付けられた。
 そして、トランの独白は止まらない。
「…………ウェトロプロジェクトの第2段階はベノムのように精神異常をきたしつつも正常を保っていられる例でしか生きられたケースが今のところ、ない。オーディショナルファクターは非人道的すぎて二の足が踏めない状態。私たちは、この2つをいまだ実践に投じている組織と、この2つを足した者たちと戦っている。数は大した事がないんだが、何しろ固体のポテンシャルが異様に高い。そのために、私たちは伝説の魔法使い、ヒルグ様にご協力願いたかったのだが、今はもういない。初代ウェトロももういない。ウェトロセカンドたちは安定と引き換えにポテンシャルが絶対的に低い。オーディショナルファクターはもう使えないし、使う気はない。つまり…………」
 ――――つまり、なんなんだよ。もう、いい加減にしてくれよ。助けてよ、コガネ。
「…………君の出番なんだよ、シロ君。君さえいれば、全てが変わる。何もしなくていい。ヒルグ様のご子息とあれば、士気も上がる。ウェトロサードも私たちの味方になる。そうすればカルトレイルも蘇る。カルトレイルが蘇れば、さらに士気が高まり、その姿に魅せられてなお味方は増える。この連鎖が起これば、奴らPTAを倒すのは夢物語じゃなくなる。もう一度言おう、何もしなくていい。ただ、君が私たちの仲間になると言ってくれればそれでいいんだ」
 ――――返事なんて、決まってるだろ?
「嫌だ」
 より強く押し付けられる銃口。トランのため息が聞こえた。引き金を引こうとする音も聞こえた。男たちが立ち上がろうとする音も聞こえた。車の中だぞ、頭ぶつけるぞ。変わらないのは、エンジンの唸り声だけだった。
「……そう、言うと思ったよ。でも、君は戦いから、戦場から逃れられる運命じゃないんだよ。だって…………」
 ――――もういいだろ? 返事は聞いたろ? 答えは変わらないから、帰してくれよ。

「だって、ヒルグ様はオーディショナルファクターじゃないか」

 爆音、飛翔。
 突如、地面のコンクリートが爆発し、時速100キロの黒塗りの車がフライトする。キリモミしながら反転し、逆さまになった状態から地面に着くまでの間に、ドアが、窓が、ハンドルが、座席が、塵に霧にと霧散する。空中にて、シロ以外が勢いに流されて地面へと叩きつけられるが、見事な受身で体勢を立て直す。シロは、空中で不自然に静止している。
「さすがに速いな、コガネ君は」
 埃まみれになりつつも、トランは調子を崩さない。その隣でベノムは、米粒より小さく見える、遥か遠くから空を駆けてくるコガネを睨みながら、シロに語りかけた。
「もう1つ、教えてあげましょう。あなたを助けに来た、あの女こそ、『Wobniar EhT RevO』プロジェクトThe 3rd、『社会的体験による不安定要素の安定化実験体』よ」
 詠唱が続く中、シロはその揺らぎに気付いた。
 目の錯覚?強い魔法力場による光の屈折?あの男の魔法?
 ベリアルの手が水蒸気にでも包まれてるかのように揺らいでいる、コガネは……それに気付いていない!
「あぶ……っ」
 シロが"それ"に危険を感じて叫んだのと、
 コガネが何かに反応しルリを抱えて飛んだのと、
 ベリアルが目に見えないそれを投げ飛ばしたのはほぼ同時だった。



 不本意ながら彼女はその時一人で職員室に残っていた。
 いつもならば他にも誰かしら人がいる、そうであれば面倒事はそいつに押し付けられる。
 大多数の生徒ならば何をせずとも彼女に関わるのを避けようとする。残りの少数の生徒が来たのであれば眼力に一言加えれば追い返せる自信がある。
 しかし、その時職員室の戸を開けたのは彼女に面倒見の良い教師という幻想を抱く極少数の変わり者だった。
「先生!助けてください!一大事なのにクロちゃ…生徒会長はどこか行っちゃうし他の生徒会のみんなも散り散りだしクロちゃんはどこか行っちゃうし、危険で危なくてやばいんですっ!」
 訂正。この学園に入学できたのが不思議なほど頭の弱い娘だった。
 一直線に彼女の元に駆け寄ってきた少女は手を振り回しつつしゃべり続ける。
「クロちゃんが「この二人に罰代わりに仕事を手伝わせます。」っていうからその監視をしてたんですけど、鍛錬場に行ったら怖い人がいて、監視してたら戦闘になっちゃって、監視してたらもっと怖い人がでてきてルリちゃんは止めにいっちゃうし、怖いし他のみんなとは連絡が取れないし……」
「だまらっしゃい」
 頼んでもいないのに説明とも愚痴とも付かないいつまでも続きそうなマシンガントークに彼女、ミス=ヒステリアと呼ばれる女性は額に青筋を立てつつ言い放った。
 瞬間、少女の声が失われる。口は動いているのに声が出ない。数分の後自分の声が出なくなっていることに少女も気付いた。
 ミス=ヒステリア、そう呼ばれた教師による説教が始まる。



 ドゴッ!!
 後ろで物凄い重量の……鉄球か何かが壁にぶつかったような音が聞こえた。
 シロは振り返ろうとしてやめた。今あの男から目を離すのは……自殺行為だ。
「ふーん、結構度胸あるじゃない。ますます気に入ったわカワイコちゃんっ!」
 ベリアルが今度は腕を上に振り上げる。
 今度は見えた。半透明な揺らいだ球体が空中のコガネ目掛けて飛んでいき…、ぶつかる手前でコガネが進行方向を直角に変え回避した。
 揺らいだ球体はそのまま重力に引かれ重い音を鳴らして地面にめり込んだ。
『なるほど、見えない鉄球か。筋肉達磨らしい無骨な凶器ね。』
 詠唱を中断することなく、魔法の才能が無いものですら受け取れるほど強烈なテレパシーをコガネが飛ばす。
「……ちょこまかと飛び回るだけの蝿がぁ。粋がるんじゃないわよっ!ベノムもまだチャージできないの!?」
「もうすぐ終わるわ。あなたがあのちびを一緒にしなければ毒を変える必要も無かったのだけれどね…」
『お姉さまは蝿じゃなくて蝶ですぅっ!』
 激しい戦闘を繰り広げる割に余裕のある4人。この中で一番焦っているのは自分ではないか?シロが疑心暗鬼に陥ったり落ち込んだりしていく間にも戦闘は続いていく。

 ――――ベリアルがもはや迷彩の完全に消え去った鎖鉄球を振り回し、ルリに抱きつかれたコガネがそれを悠々と回避する。
 ベノムの銃弾の大半をでたらめ且高速で移動し大半を回避、回避しそこなった弾も結界で防がれ毒はルリに中和される。
 攻撃は一方的なのに、場は逆に一方的だった。
 そして、BGMと化していた詠唱が終了した。
「待たせたわね。あなた達程度には勿体無いけど唱えちゃったから使ってあげるわ」
 その時やっとシロは思い出した。本当に恐れるべきは誰だったのかを。

 学園中に爆音が響き渡った
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