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魔法学園小説 ―17話―

「……俺、なにやってるんだろうなぁ」
死にてぇ、と呟くほどではないにしろ、シロは今日も今日とて鬱々としたオーラを発していた。
鬱々としたオーラをシロが発するのは別に珍しいことではない。むしろ年中無休と言ってもいいだろう――なんせシロはコガネという名の少女によって常日頃から酷使されているので、気がつくと心身ともにライフポイントが3桁ぐらいになっている。鬱々としたオーラはそれがトリガーとなって自然発生するのである。
だが、そんな日常茶飯事で見飽きた現象はどうでもよかった。シロにとってどうでもよくなかったのは、手元にある大量コピーされた手作りチラシの処分方法がどうにも見定まらないことであった。
「クロちゃんに掛け合うのは……駄目元どころか死亡フラグだし、1枚でも学校の掲示板に無断で貼ったら以下同文。一人一人に配るにしては少ないし、捨てられたら意味ないし、そもそも避けられそうだし」
 シロ自身どうしたら他人と上手く接することができるか、などということは皆目見当がつかなかったし、そもそもそんな気だるいことをする気にもなれなかった。
 しかし無論だが、このまま何もせずにこの手作りチラシ――コガネが昨日思い立ち、深夜まで思い悩んだあげく30分で書き上げた芸術的に稚拙な絵に加え、近くに寄って見なければ解読不可能なまでに細かい字で仔細に書かれた本文を兼ね備えているという、究極的なまでに広告としての機能が欠落している代物を――このまま丸ごとコガネに返すわけにもいかない。というかそれが一番駄目だ。死亡フラグどころか「死亡確定」なのだから。
「(どっかバレなさそうな所に捨てる……のも駄目だ。俺の心臓では何週間安眠できないかわかりゃしない……リスクが高すぎる)」
 自分のクラスに行けばクラスメイトのよしみで何人か興味を持ってくれるかもしれないが、それでも「死亡確定」がギリギリ死亡フラグにランクダウンする程度だろう。無論、100%が90%後半台になるだけでもシロにとっては非常にありがたいことだったが、できるだけなら50%未満……などという贅沢は言わないから、60%とか70%とか、「10回のうち3、4回は死ななくて済むぜ、うふふ」などと現実逃避できる確率であって欲しい。
 だからこそシロは努力しなければならない。文字通り自身の保身のために。
「……しかし、正直どうしたもの――がっ!?」
 遠い目で天を仰ぎながら歩いていたシロは当然のごとく前方不注意で、それゆえにこちらにやってくる存在に気付かなかった。
 よろめきつつ、痛みに顔をしかめて前方を見るとそこには一人の少女が尻餅をついて涙目になっていた。
「ご、ごめん。ちょっと考え事していたからよく見えてなか……ったです」
 シロの語尾が丁寧語になったのは、ちゃんとした訳がある。それというのも彼と衝突し、尻餅までもついてしまったその少女は、紫色のロングストレートという出立ちで、
つい一週間ほど前にシロ達と対峙した、ベノムという名の少女の顔をしていたからだ。



まるで、時が止まったかのような一瞬であった。シロが少女の可愛らしさだとか、スカートの隙間から見え隠れしている眩しい白色だとかに心を奪われていたから、などというラヴコメディチックな理由からではない。
シロは口内がカラカラに乾いているのにもかかわらず、喉を通っていく固い唾の存在を感じ取っていた。繰り返し言うがその要因はときめきだとか、パから始まりツで終わる存在による興奮ではない、断じてない。
だったらなんなのか。純粋に――危機感を覚えたからである。
「(……やばい)」
 果たして彼女は自分のことを覚えているだろうか。あの戦闘ではロクに活躍しなかった。(コガネ曰く、あの角刈りの不良の方が役に立った)なので、覚えていない確率は意外と高いと思われる。が、シロはベノムという少女がどういう人物かをよく知らない。知っていることといえば、機関銃をぶっ放すことと、毒を用いた魔法を使うこと、もしかしたらコガネ以上に容赦のない性格をしていること、それに――笑顔がとびっきりステキで、一目見た瞬間にゾクリ、ときたこと。
 そしてそれらをまとめればこういうことになる。次の瞬間、彼女は天使のように微笑んでこちらを断罪(殺して)してくるか、あるいは舌打ち一つをして通り過ぎてくれるか、そのどちらかだ。シロが望むのは、断然後者の方である。しかし、
「……あいたた、た」
 ……どうにも様子がおかしい、とシロは思った。そもそも彼女が――この少女があのベノムだったとしたらなおさら――涙目で尻餅をついているという光景からしておかしい。
 あの素晴らしくキレイなホホエミを浮かべた少女が、前方不注意の男子と正面からぶつかり、尻餅をつき、スカートを軽く乱して、何か見ちゃいけないようなものもハミ出させて、涙目で痛そうにしている。
 ギャップで萌える人間だったら、もしかしたらそれだけで萌え死ねるほどのギャップなのではないだろうか、とシロは思った。いや、自分は違うけど、とも思った。
「だ、大丈夫か……ですか」
 なんだか敬語と素の言葉がごっちゃごちゃになった状態になりながらも、とりあえずシロは動く。具体的に言えば、少女の方へと手を差し伸べた。
「あ、はい……えと、ちょっと尻餅しちゃいましたけど」
 気恥ずかしそうにしながら、ペコリと差し出された手に感謝しながら、少女がそう言った。触れた手の柔らかさに、そしてやはり少女が何か違っていることに、シロは内心で驚愕する。
「その、ごめん。考え事していると前が見えなくなることがあって」
「考え事……お悩み事、とかですか?」
「ん、まぁ……そんなところ、です」
「そうなんですかぁ」
 ぶつかってきたことに怒るどころか、暢気に相槌をうちながら少女はこちらへと好奇心に満ちた瞳を向け――この時点でシロの感じた違和感は最大値になった。
「あの……何か?」
「あ、その……すいません、なんかジロジロ見ちゃって……私、実は占いとか、そういうことに興味があって占術の授業受けていて」
「占術?」
 はい、と返答しつつ少女がシロに差し出したのは、シルバーカラーの貝殻状の何かであった。
「……それは?」
「占いの道具です。えっと、よかったら私にそのお悩みを打ち明けてみませんか?あなたさえよければ、これで占ってさしあげますよ?」
「へ?あ、いや、でも」
 こんなところで油を売っている余裕など、シロにはない。一刻でも早く、一人でも多くこのチラシに興味を持つ人を集めなくてはならないのだから。だけど、
「大丈夫。この子も私も聞き上手なんですよ♪」
 そんなことを邪気のない、それこそ文字通り天使のような笑顔で言ってのける彼女に、元々主体性がなく、押しに弱いというヘタレ属性を持つシロの思惑は、ポッキーのように軽快な音を立てて、それこそポッキリと折れた。
「その、じゃあ、お願いします」
「はい、お願いされました。では、早速……ぼそぼそ」
 自分で擬音を呟きながら、紫色の髪の少女が手に持った銀色の物体を撫でる。すると何やら不吉な感じのする(シロにはそれが誰かの断末魔のように聞こえた)低音ヴォイスがその銀色な何かから漏れ出し、しばらくの間メロディを紡ぎ出す。(といっても、10秒もしないうちに消えたが)
「ほむほむ……なるほど!」
「……な、何かわかったんですか?」
「朗報です、解決策がわかりました!」
 一体どういう原理でそれがわかったのか、シロはとても気にはなったが聞かないことにした。なんか怖いし、知らない方がいいことって世の中には沢山あるし、あとヘタレだったから。
 なので、シロはとりあえず藁をも掴むような気持ちで問いかけてみた。
「解決策?」
「はい。私が、そのチラシを配ればいいんです」
 なんだかシロにとってその少女の笑顔は、女神のように見えた。

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