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魔法学園小説 ―3話―

窓を見ると、そこには真っ白な世界があった。
小さく感嘆の吐息をもらしつつ、男の子はその大きな瞳を限界まで見開く。眼下に見える白の大陸――否、雲の海は太陽の光に照らされ、まぶしいと感じるほどに白く輝いていた。
その男の子はもう一度、今度は感極まったかのように吐息した。いつもは下から見ている物を、今度は上から見ている。それだけだというのに、印象はガラリと変わった。
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彼は、地上から見る雲があまり好きではなかった。それは、彼が一番嫌いな色が白だからでもある。だけどそれ以上に彼が一番好きな色は青色であり、だからこそ、空の青さを隠してしまう雲の白さが、気に食わなかった。
しかし、今、彼の好悪は変動した。壮大かつ美しい白い雲の海は、彼の無邪気な価値観を逆転させるには充分だったのである。
「どうだい、シロ。『飛行機』という物は、凄いだろう?」
シロを自分の膝に乗せた男が声をかけてくる。その声には若々しさと、静かな力強さと、確かな心強さがあった。その声の主を知っているシロは、その問いかけに対して嬉しさと共に元気よく応える。
「あはは、そうだろうとも。うん、シロを連れてきてよかった。『飛行機』の凄さがわかるんだから、きっとシロは将来大物になるぞぉ」
「もう、あなたったら、何かある度にシロを甘やかすんだから」
少し困ったような声が、男の声よりも右隣から聞こえる。それは男の声と同様に若々しく、それと同時に包み込まれるような温かさと、安らかな優しさを感じさせるような女の声であった。
「いいじゃあないか。いつもは仕事ばっかりで、私は休日でもロクにかまってやれない。
だからこそ、こういう素晴らしい日ぐらいは一緒にいて、シロを喜ばせてあげたいのだよ」
なぁ、と語りかけながら男はシロの小さな頭に大きな手を乗せ、少し乱暴な動きでくしゃくしゃと頭を撫でる。ムズ痒いような、しかしそれ以上に嬉しそうな表情をするシロを見ていた女は、それにつられるかのように微笑みを浮かべていた。
「そうね。これでようやく、何百年と続いていた『西』との対立が終わるのよね」
「あぁ。『魔法』と『科学』――根本から信じるものが違うのだから、対立はある意味当然でもある。けれど、それでいいはずがないからね……ようやく、終わったということかな」
膝の上に乗せられたシロ。空いている真ん中の席。ふと、どちらからか目を合わせ、穏やかに微笑みながらその男女は手を繋いだ。
「……ねぇ、あなた」
「なんだい?」
「この子は……この子達がこれから育っていく世界は、今の世界よりも幸せなものになるかしら。『西』と『東』は争いをやめて、お互いに歩み寄って……でも、本当に皆がわかりあえるのかしら」
それは、という始まりを持つ言葉を男は言おうとして、しかし女は首を振ってそれを遮った。その表情には、少しだけ悲しげな微笑みがある。
「あたしとあなたは分かり合えたけど、ね」
「……そうだね、でも――」
それでも、と希望の観測を続けようとした彼の言葉は途切れた。その要因は、炸裂音で、
次の瞬間には『飛行機』は――歩み寄り始めた両国の歴史は、空を切り裂きながら堕ちて、

耳に心地良い炸裂音がした。要因は極めて簡単。丸めた雑誌という凶器による原始的な殴打。それに伴うものだった。
「いっ――!?」
その殴打の被害者である白髪の少年――シロは当然のごとく付随した痛みに対して跳ね起き、軽くのたうちまわる。
「あら、おはよ。元気なさそうに壁に寄りかかっていたもんだから一発入れたんだけど、その様子だと思っていたより元気余っているみたいね」
対し、殴打の加害者である金髪に縦ロールの少女――コガネは何故か得意げな笑顔で、丸めた雑誌を片手にシロを見下ろしていた。しかも彼女は仁王立ちであった。
そこでシロは気付く。まずい、居眠りをしていた。どれぐらいかはわからないが、彼女の声色に見え隠れする怒気から鑑みて――けっこう寝ていたことは確実だ。
「(これは……もしかしなくともまずい状況……!)」
何故かは言うまでもない。第一に、この金髪の縦ロール少女は不機嫌である。それだけでも少年にとっては軽い死亡フラグではあるが、今回は軽い死亡フラグなんてものでは済まない可能性がある。
おそるおそるとシロは声の主を見上げた。別におそるおそる慎重に見上げたからって事態は好転したりはしないが、とにかく内心でビクビクしながらも彼女を見た。
彼女は笑っていた。そりゃあもうとびっきりに殺人級の笑顔であった。シロもつられて笑った。実に気持ちのいいぐらいに諦観の笑みであった。
「ねぇ、そこのヘタレ」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいはいいから。私ちょっと喉が渇いたんだけど、今仕事で手が離せないのよ」
「食堂まで行ってまいります、はい」
「私はレモンスカッシュね。わかったら返事」
「申し訳ありませんでした」
「よくできました。ほら、さっさと行く」
まるで少女の小間使いでるかのような従順さで少年は頭を下げ、ヘタレ本能に導かれるままにその場を去ってゆく。
少年の姿がしだいに遠ざかり、やがて見えなくなったところでコガネはゆっくりとため息を吐いた。
「……本当に緊張感がないっていうか……」
一応、自分達は矯正という名目で罰を受けている最中である……が、そう思いながらもあながちシロの気持ちはわからないでもない。
「(でも、矯正という名目での罰が……不良グループの監視というのは当てつけなのかしら?)」
誰もいない教室、その窓から見える広場で何十分も前からたむろっている数人のグループを見つめながら、コガネは二度目のため息を吐いた。
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