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魔法学園小説 ―4話―

「……ったくなにが『今仕事で手が離せない』だよ。単なる罰当番なんだからもっと肩の力を抜けっての」
 自動販売機に小銭を入れながら、シロはため息をひとつ、ついた。
 そのため息は、コガネに面と向かって文句を言うことのできない、自分自身にむけられていたのかもしれない。
「まぁ、筋金入りの問題児2人が不良グループを見張るというんだから、ほとんどギャグだよなぁ」
「……なるほど、『ギャグ』ですか」
 背後から聞こえたその呟きと共に、目の前の自販機に幾筋かの光軌が走る。今まさにボタンを押そうとしていた手が、ピクリと固まる。
「ならばこの展開も、『お約束』ということですね」
 声と共に、切り刻まれた自販機が崩れ落ちる。シロの背中を、冷や汗が滑り落ちる。
「あなたは遅刻だけではなく、早退の癖もあったのかしら? ならばもう少し『仕事』を増やす必要がありますね」
「……いや、まさか。そんなわけ無いじゃないですか」
 シロはそういいながら、恐る恐る背後を振り返った。そこには、腕組みをしているあきれ返った表情のクロが居た。
「ならなぜ、食堂に? 『仕事』はどうしました?」
「…………いや、これもその一環で」
「レモンスカッシュを買うことが、ですか?」
 場の温度が一段階下がった。シロの全身が瞬間固まり、ついで微かに、震えだす。
「……生徒会の情報網を、甘く見ないでもらいたいですわね。あなた方の行動は、逐一報告されているのですよ?」
「も、申し……訳……ありま……せんでし……た」
 歯の根が合わない中、何とか声を振り絞ってあやまる。
「よくできました。なら、さっさと仕事に戻りなさい。あなたの仕事は、『西』と『東』の本当の歩み寄りのために、大切な事なのですから」
 まるで少女の飼い犬であるかのような従順さで少年は頭を下げ、生存本能に導かれるままにその場を去ってゆく。
 少年の姿がしだいに遠ざかり、やがて見えなくなったところでクロはゆっくりとため息を吐いた。
「……本当に緊張感がないっていうか……何であんな人が……」
「まぁまぁ、そう言うなってクロちゃん」
 突然、クロの背後に一人の男性の姿が現れる。
「……突然現れて、人の頭を撫でないでください」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
「それに、むやみに魔法を使うのは、校則違反です。どうせまた正規の手順を踏まない『無詠唱行使』なんでしょ?」
「うんうん、よく出来ました」
「…………私は生徒会長なんですよ?」
「うんうん、でもクロちゃんは俺のかわいい子猫ちゃんでもあるし」
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 そういうと、その男はクロの頭をワシワシとかき混ぜた。やたらと筋肉質の男と比べると、クロの幼さがよりいっそう目立つ。
 もっとも、2メートル以上もあろうかという筋骨隆々の男と並べば、たいていの女子はお子様に見えてしまうのだろうけれど。
「あぁ、もう。これは止めてくださいっていつも言っているのに。あなたも学習能力が無いんですか」
 そういいながらも、クロの表情は別段イヤそうには見えない。
「彼をあんまり苛めちゃダメだよ? クロちゃん」
 その言葉に、クロは心底いやそうに眉をひそめた。
「……正直、私は納得が出来ません」
「あんな人から、学ぶものなど無い、と?」
「そうです、私は何色にも染まらないし染められたりはしません。私は『生徒会長』なんですよ? なのになぜ」
「だからクロちゃんはお子ちゃまだって言うんだよ。……この学園の創設の由来は、クロちゃんなら知っているよね?」
「もちろんです。長きに渡る『西』と『東』の――――『魔法』と『科学』の争いを無くすべく、双方の文化の融合を目指して作られた場所」
 そう、この慶昴(ケイボウ)国立魔法学園および周辺の都市は、『魔法』と『科学』の融和を図る、いわば一種の実験都市だった。
 当然、市民は何らかの魔法が使える者もしくはその家族で占められているし、『魔法』や『科学』のどちらかに偏った生活は、都市のそもそもの目的から反するのでご法度である。
「うんうん、よく出来ました。さすがは今年の最高学年の成績最優良者」
「……馬鹿に、してます? いくらお兄様でも、許しませんよ?」
「まさかぁ。いくら幼馴染だからといっても、そんなことはしないよ?」
「…………どうなんでしょうか」
「とにかく。その相容れない文化の融和を目指した学園のトップともあろうお人が、まさか肌に合わない生徒を排斥するだなんて事は……ないよねぇ」
「っっっ」
 クロは言葉に詰まり、うつむいてしまった。そんなクロを、男はそっと抱きしめる。
「大丈夫大丈夫。ゆっくりと、少しずつ大きくなればいいんだから、ね?」
「……ズルイです、お兄様は。本来ならば、お兄様のほうが会長には相応しいのに」
 真っ赤になったクロが、ポツリと呟く。
「ふふっ。大丈夫大丈夫。クロちゃんは良くがんばっているよ」
「………………」
 二人の周りにだけ、時間が止まったかのような柔らかい空気が漂っていた。



「ねぇ、そこのヘタレ」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいはいいから。私ちょっと喉が渇いたんだけど、って言わなかったかしら?」
 コガネは笑っていた。それはもう見るものすべてが蕩けてしまうかというほどの、とびっきりの笑顔であった。だがしかし、今度ばかりはシロも一緒には笑えなかった。
 コガネから放たれているオーラが、その場のすべてを凍りつかせていた。
「私のレモンスカッシュは?」
「イヤ、その……」
 この瞬間、2人は『仕事』のことなどきれいさっぱり忘れ去っていた。目の前の少女の体が、少しずつ宙に浮いていく。
 シロは蛇ににらまれた蛙の様な面持ちでこの場にいる事しかできなかった。まるで、時が凍りついたかのように。
 やがて、少女の頭が天井に届くかという高さになった時に、凍りついていた時が動き出した。
「あなたはお使いすらロクに出来ないの? この役立たず!!」
 怒声とともに、少女のドロップキックが飛んでくる。
「わわっ。待て、それはシャレにならん!」
「問答無用!!」
 重力を利用したその攻撃を受け止めようと、つい目の前で手を交差させるシロ。だがしかし、そんなことで防げるはずも無く……。
 シロの最後に見たものは、靴の裏とすらりと伸びた足、それにその奥の『白』だった。
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