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魔法学園小説 ―5話―

 夕暮れ時。それはこの慶昴国立魔法学園においては、ほとんど生徒が各々の宿舎へと戻り、また一部の勤勉な生徒が学内の資料庫で書物をたしなんでいるような時間帯である。
 明日の授業に備えてゆっくりと休むか、少しだけある余裕を利用し、自らの心を引かれるような書物と向き合うか。そのどちらを選ぶかは自由であり、なおかつそれが健全なる魔法学園の生徒達のライフスタイルなのである。
 だが、当然のように――と言うと多少なりとも不条理に思えるが、世界には異端分子(イレギュラー)というものが、何かしらの形で発生する。この魔法学園の場合、その異端分子というのは……血の気の多い、喧嘩屋――オブラートに包んで物を言えば、実技の授業が楽しくてたまらなく、授業だけでは物足りないと感じ、放課後にも実技を行うべく連日鍛錬場に居座っているという、なんともまぁ元気溌剌な連中のことを指す。
 彼ら、あるいは彼女らは終始馬鹿騒ぎをしつつ、適度に、時には過激なまでに打ち合い、己の能力を高めることなどいざ知らず、場合によっては純粋に鍛錬のために来ているような心身ともに健全な学生にもつっかかり、それがトラブルを招くこともある。
 そして、今日も例によって例のごとくというか、鍛錬場ではやはりトラブルが起きていた。



 繰り返すようではあるが、今日も鍛錬場ではやはりトラブルは起きていた。
 だが、今回のトラブルは「普通」ではなかった。そもそも「普通」ではないようなことが起こるからこそトラブルが発生するのだから何かおかしな物言いのようであるが、とにかく、それは「普通」ではなかった。
「……」
 ゆうに十数人が一度に運動することができるような密閉空間の中で、角刈りの、少し大柄な男子が生唾を飲みつつ、後じさりをしていた。
 彼の周辺は、当然のごとく静かではなかった。それもそのはずで、ここは鍛錬場であり、鍛錬をする場所である以上、生徒達が魔法などで打ち合いをするため、詠唱、あるいは対峙している相手の様子見をしている時の静かな呼吸で、この場は満たされていて当然なのである。大抵の場合、そこには異端分子たる不良達の馬鹿騒ぎも加わるため、鍛錬場はいい意味でも悪い意味でも、騒がしくて当然なのであった。
 だが、という接続詞から始まる言葉の流れを、その男子は心の中で作った。
「(だが、今は……「静か」だ)」
 もう一度言おう、彼の周辺は静かではなかった。それで当然だ。が、普段と比較すれば、今現在――そこかしこから呻き声が聞こえてくるという状況は、相対的に言って「静か」であるとも言えた。
 角刈りの男子は、ゆっくりと自分の足元から左前方に視線を移す。そこでは赤髪の男子が、痛みからか、時折肩を震わせながら倒れ伏していた。さらに言えば、彼のような状態である不良数人がそこら中で転がっているというのが、今現在の鍛錬場の状況なのであった。
「(……ばけもんだ)」
 今更ながらに事の重大さに気付いて、角刈りの男子は脂汗を浮かべる。間違いなくそれは恐怖による極度の緊張からなるものであり、そして彼の恐怖の対象は、静かに、しかし圧倒的な存在感を持って、空間の中央にて君臨していた。
――空間の君臨者たるその存在は、長い、紫色のロングストレートという出立ちの少女であった。
「……満足?」
 つまらなさそうに、あるいは気だるそうに少女はポツリと呟いた。それは何の変哲もない普通の言葉ではあったが、角刈りの男子を震え上がらせるには充分すぎる言葉であった。
 おそるおそる、男子はその少女へと視線向ける。少女はその細い左腕に黒光りをする長身の物体――角刈りの男子は知る由もなかったが、機関銃と俗称されるものを、片手で持っていた。
「ねぇ」
 何の気なしの問いかけ。答えを促していることに気付いた男子はその事実に焦り、冷や汗をダラダラと流し、そしてようやくぎこちない動きでゆっくりと頷く。
 それに対し、少女は、へぇ、とまるで感情のこもっていない感嘆詞を口にしながら、
「そっちはそれで満足なんだ。なら、よかったね……って言ってあげたいところだけど」
 ゆっくりと銃口を向けながら、少女は天使のように優しい残酷さを持つ笑みを浮かべ、
「あたしは、まだ満足していないのよ」
 悪魔のごとく容赦なしに引き金を引いた。



「――」
 機関銃から銃弾が何発か発射される。それらは瞬きをするよりも早く獲物までの距離を詰めていき、正確無比に着弾し、獲物を仕留める……はずであった。
「――なに、あなたは?」
 やはりつまらなさそうに、紫色の髪をした少女は突如の乱入者に問いかける。その乱入者は見事な金髪の縦ロールをした、毅然とした態度を持つ少女であった。
 その少女はゆっくりと、しかし見せびらかすかのように魔法で作った障壁で受け止めた銃弾をつまんでみせながら、
「それはこっちの台詞だわ、1‐Cクラスのベノムさん。ここは鍛錬室であって、戦場ではないのよ? ……なんでそんな物騒なものを使っているのか、説明していただけるかしら」
 事務的な口調で、咎めるように言った。尊大な感じのする物言い、そして金髪に縦ロールという出立ちは寸分たがわず、コガネのものであった。
 それに対し、ベノム、と呼ばれた少女の方は面倒くさそうに、コガネの後ろでへたりこんでいる角刈りの男子を指しながら、簡潔に答えた。
「そっちの奴と、そいつの仲間があたしに決闘を申し込んできた。鍛錬場では、損害軽減の詠唱がされているから、全力で叩きのめした。それに何か問題でも?」
「大アリね。不良だからといって叩きのめしていいっていう法律はないわ。そんな社会のためになるような法律が可決されたら、私は泣いて喜びつつ次の日から不良を叩きのめすだろうけど……そんな法律なんてないのが、現状よ」
「……で、何が言いたいの。不良にからまれたら黙って大人しく堪えろと?」
「別に。私も不良は嫌いだし、からまれて黙っていろ、なんて酷なことは言わない。ただ」
ピッ、と人指し指を立て、そのままそれをベノムの方へと向けながら、糾弾するようにコガネは言った。
「あなたの場合、第一に自分から不良にかかわっている。あちらから絡んできたなら話は別だけど、挑発をすれば不良がそれに乗るのは火を見るより明らかなのに、あなたはそうした。第二に、あなたの報復は過剰すぎるってこと。不良だからといって、不登校になるほどのトラウマを植えつけるのは、言うまでもなくやりすぎ。第三に、あなたは『魔法』も含めてだいぶ『科学』……『東』の方に偏りすぎている。それは、この慶昴魔法国立学園においては、言うまでもなくご法度」
「……そう」
 コガネの糾弾に対し、しかしやはりつまらなさそうにベノムは頷いてから、はっきりと言ってのけた。
「それが?」
 反省のまったく見られない態度に対し、眉根をしかめ――しかし、次の瞬間には不敵な笑みすらも浮かべ、コガネは言った。
「生徒会の権限において、あなたを粛清するわ」
 鍛錬場――訓練という名目で堂々と打ち合える環境においてなされた「粛清」という発言。その意味を看破したベノムは、ゆっくりと金髪の少女の方へと視線を移し――その横に頬の腫れた白髪の少年が表情に焦燥の念を浮かべているのを認め、しかしそれを華麗にスルーし、少しだけ愉快そうに、口の端を吊り上げ、罪を赦す時の、慈愛に満ちた天使のごとく……美しい微笑みを浮かべた。
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