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魔法学園小説 ―10話―

「ねえ、おかぁさん」
「なぁに? シロ」
 シロはソファに座っている母に膝枕をしてもらっていた。
 その柔らかく温かい感触は、まるで全身を包み込まれているようで心地よく、この空間内にいれば、何も怖いことなどないような気がして。
 だから、今まで密かに抱いていた疑問を思い切って訊ねる決心をした。
「おかぁさんって、魔法を使えないんだよね?」
「……そうね。お母さんは『東』の人間だったから」
 『東』と『西』。たまに、両親の会話の中に出てくる言葉。ただ単に方角を示した言葉ではないことは、なんとなく雰囲気から分かってはいたが、具体的に何をあらわしているのかは、知らなかった。
「……『ひがし』って?」 
「そうねぇ。“全ての物事は、ある一定の条件下で起こされた普遍的な結果である”という考え方をする人たちの集まり、かしら」
「…………ぜんっぜん、わかんないよ」
「あらあら。でも、『東』の人たちでも“『東』とは何なのか”なんて全く考えたこともない人もいるの。だからね、シロはうんと勉強をして、きちんとした答えを自分自身で見つけていくといいわ」
 そういって、母はやさしく頭を撫ででくれた。その感触が、優しくそしてくすぐったくて。
 ――――だから、『東』がなんなのかなんて、どうでもいいや、なんて思った。そのうちに分かるだろう、だなんて想った。だから、シロは当面の問題に戻ることにした。
「うん、分かった。……ねぇ、おかぁさん」
「なぁに? シロ」
「おかぁさんって、魔法を使えないんだよね?」
「そうね。シロが考えているような魔法は、全く使えないわね」
 そういった母の顔はとても穏やかで。それが、シロにはとても不思議だった。
「ねぇ、おかぁさん。魔法、怖くないの?」
「いいえ。だって、お母さんは最強の魔法が使えるんだもの」
「……? 魔法を使えないのに、魔法が使えるの? なにそれ。へんだよ」
「うふふ。きっとシロにも解る日が来るわ。―――― 心から愛する、そんな人が出来たらね。」
 そういいながらシロを見つめている目は、とても優しく温かなもので。だから、シロは考えることを放棄した。
「ふぅん。……よくわかんないや」
「あはは、そうだろうともそうだろうとも。うん、シロは男の子だもんな。俺と同じで恋だの愛だのには唐変木なんだよな」
 それまで黙って二人のやり取りを見ていた父が、とても嬉しそうに声をかけてきた。
「もう、あなたったら。いつも物事を適当に誤魔化すんだから……」
「あはははは。俺は過去の知見を元に未来を予測してそれを普遍化する、なんて事は苦手だからな。行き当たりばったり、さ」
「むぅ。おとうさんまで解んないこと言ってるし」
 父が家にいることは、珍しく。特にここ最近は忙しいらしく、帰ってきたと思ったらまたすぐに出かけてしまうことも多くて。
 シロは父とゆっくり会話が出来る事がとても嬉しかったし、また心強かった。だから、この悩みを思い切ってぶつける事にした。
「ねぇ、おとうさん」
「ん?」
「おとうさんは、魔法が使えるんだよね?」
「あぁ。一応、学園の生徒会長だったこともあるぞ?」
 今まで聞いた事のない新たな言葉が出てきて、ちょっとびっくりしてしまう。
「……せいとかいちょう?」
「まぁなんだ、『雑用係』というか『面倒ごとを背負い込む係』というか」
「ふぅん、大変なんだねぇ」
「あははは、『大変』だなんて言葉では括れないほど大変だったな。だからな、シロ。『生徒会長』の手伝いは、出来る限りしてやれよ」
 自分なら絶対にそんな係はやりたくない、と思った。そんな大変そうなことを一笑に付してしまう父を、シロは「凄いなぁ」と思い尊敬した。
「うん、分かった。……ねぇ、おとうさん」
「ん?」
「おとうさんは、魔法が使えるんだよね?」
「あぁ」
「魔法を使えない人を、苛めたりしないの?」
 言ってしまった、と思った。心臓がドキドキする。学校の先生でも答えてくれないことを、とうとう聞いてしまった。
 ちゃんと答えてくれるのだろうか。先生みたいに、笑って誤魔化すんじゃないだろうか。……お父さんってば、笑って誤魔化すの得意だし。
 だがしかし、シロがそんなことを考えている間に、父はいともあっさりと返事を返してきた。
「するわけないだろう」
 当たり前のことを言ってどうするんだ? とその目は言っていたが、それでも、シロは確認を取りたかった。
「…………本当に?」
「するわけがないだろう。……もしかして、シロは苛められているのか?」
 父と母なら、大丈夫だと思った。父と母なら、何があっても自分を守ってくれると想った。だから、思い切って、言って見ることにした。
「………………うん。魔法が使えない人は、『ロボット』って言う『機械』なんだって。『機械』は、生きていちゃダメなんだって」
「何? 誰だ、そんなこというやつは!!」
「もう、あなたったら、ちょっと落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いていられるか! 当人が苦しんでいることで苛めるやつは、最低中の最低だ!」
 父が顔を真っ赤にしながら、拳を握り締めてくれる。母が微笑みながら、優しく頭を撫でてくれる。たったそれだけのことだけれども、とても幸せだと思い、また、とても安心した。
「……それ、コガネちゃんも言ってた」
「あらあら、よかったじゃない」
「…………「あんたたちこそヘタレた魔法しか使えないじゃない。私から見れば屑よ? 屑は屑らしく、ゴミ箱にちゃんと捨てられてなきゃ」っていって大暴れした」
 あれは大変だったなぁ、とシロは思い出していた。――――結局教室中をグチャグチャにしちゃって、コガネちゃんと二人で片付けさせられたんだよなぁ。
「あははは、あの子らしいなぁ。いい嫁になりそうだ」
「もう、あなたったら……。」
「ねぇ、ボクは『機械』なの? 生きていちゃダメなの? おとうさんとコガネちゃん以外の魔法を使える人たちは、みんなボクのことを嫌いなの?」
 『嫁』って何のことなのかちょっと気にはなったけれども、それ以上に嫌われていないのかが気になった。何もしていないのに嫌われなくっちゃいけないのかと、とても気になった。
「ねぇ、シロ。シロはどう考えているの? お母さんみたいに魔法が使えないことを」
「わかんないよ。わかんないけど……でも、コガネちゃん以外のみんなが」
 母は相変わらず優しく頭を撫で続けてくれて。それがとても嬉しくて。だから、シロは泣き出してしまった。今まで我慢していた分をも一緒にまとめて、涙を流してしまうことにした。
 母の優しい手と、父の温かい視線を感じながら、シロは思いっきり、泣いた。泣いて、泣いて、泣きつくして。気が少し晴れた頃合を見計らって、父の落ち着いた力強い声が、意外なことを言い出した。
「……シロ、これだけは言っておく。『機械』も凄いものは凄いんだぞ?」
「……ひっく、……うそだぁ……」
 それは慰めでもなんでもないようでいて、とても優しい一言で。でも、シロには思っても見なかった一言だった。
 ――――まったく想っても見なかった一言だったからこそ、シロは無意識に『機械』をバカにしている自分がいたことに、気付いてしまった。
「むむ。お父さんが嘘をついたことがあったか?」
「……ひっく、……いっつも、適当なことを言ってるよ?」
 気付いてしまったその思いは、とても恥ずかしくて。――――シロはおちゃらけて誤魔化すことにした。
「あらあら。あなたったら、シロにまで言われちゃって」
「むむむ……。よし、そこまで言うのなら、証拠を見せてやろうじゃないか」
 だがしかし、父はどこまでも真面目で。またもや全く想ってもいない一言を返してくれた。涙は、完全に止まってしまった。
「…………証拠?」
「ああ、『飛行機』っていう凄い機械を体験させてやる……よし、『善は急げ』だ、いくぞ!」
「えぇ~!? 今からぁ? もう、夜だよ?」
 そういいながらも、わくわくを抑えられたい自分がいた。『飛行機』って一体なんなんだろう。本当に、そんなに凄いものなのかなぁ。
「大丈夫だ、問題ない。なぁに始末書の一枚や二枚、適当にでっち上げればいいんだから」
「ねぇあなた、明日にしましょうよ。明日なら、私たち二人ともお休みでしょ?」
「ふむ。よし、ならばそういうことで。じゃあ寝るか!! 今すぐに」
「うん!!」


―――――― 楽しそうな笑い声。在りし日の出来事。今は失われてしまった、大切な日常。今は望むべくも無い、温かな心の触れ合い。
―――― あの日、僕があんなことを言い出さなければ。

目覚めたシロの頬には、一筋の涙が流れていた。
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