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魔法学園小説 ―12話―

 誰にでも気分が憂鬱になる事があるだろう。その原因は、たとえば不始末を犯したばかりに要らぬ罰を受けてしまう事だったり、苦手な教師に長々とお説教をされる事になったり、とある建物の中で命のやり取りをなぜかする羽目になったりと、まあ人それぞれあるはずだ。
 無論、このたとえが全て適用してしまう稀有なお方も世の中に一人くらいはいる。それが、何の変哲もない午後八時の大通りをとぼとぼと歩き、もし他人の気分を色に変えて見る事が出来る能力を持った人がいれば、ドドメ色に映ったであろうという程、誰が見ても死にたいオーラを放っているその男性こそがそれだ。虚ろな目、フラフラと頼りない足取り、なかば開いた間抜けな口などなどが、この日彼がどれだけ疲れ果てているのかを如実に物語っていた。どうか通りすがる事があったら、ご愁傷様と一言言ってやって欲しい。
「あー…………、死にてぇ」
 ――――補足。こんな事言っている人に一言声掛けるのは難しいかもしれない。

 死にたいオーラをご近所様に振りまく事三十分、彼はようやく自宅まであと交差点一つという所まで帰ってきた。ああ、そこで「片道三十分も掛かるのかよ」と言わないでいただきたい。徒歩三十分も掛かる所に住んでいるのは、決して学校指定と不動産屋の意地悪ではないのだ。これには彼の不幸な偶然が、そう、ただでさえ不幸なのにそれに上乗せされる不幸が三つほど重なっているのだ。一つは彼が空を飛んだり歩行速度を上げたりはたまたワープしたりする事が出来ないという事(していいかどうかはさておいての話だが)。一つは自転車に乗れないという事。そして一つは、スーパーにも学校にも大体同じくらいの時間で行ける場所を選んでしまっただけだという事だ。余談だが、まだ彼の不幸事を追求するのなら、彼が今ここで待っている交差点は変形五叉路であって、信号の変わりが三分に一度で三十秒という、なかなかイライラさせられるものなのだった。さらにさらに、彼がこの交差点に差し掛かった瞬間に青信号が点滅を始め、ヤバイと思って走り出したにもかかわらず、無情にも赤信号に変わってしまったというのもまた不幸事の一つだろう。この世の無情のバーゲンセールのようである。
 そして今、彼は怒りを通り越して悲しいも通り越して無我の境地一歩手前にやってきている。では、彼の今の心境をついついぼやいてしまった愚痴から察してみる事にしよう。
 これである。
「あー……………………、死にてぇ」
 要約された一言が赤信号にぶっ放された。彼は今日一日で、随分と自分を簡潔に表現する事に長けたに違いない。彼はこの後三分間を疲労と戦いながら待つ事になるが、凡人には理解できない粋に達しているお方を見ていても面白くないので、彼以外にも視線を向けてみよう。たとえば、対岸にでも。
 そこにはロングコートを羽織り、ハットを目深に被った金髪の青年がいた。夜中だが、いや夜中だからこそかなり浮いている。夜中というのは怪しい者たちが活発になる時間であって、いやいや、妖しい人達ももちろん活発にはなるけれども、やたら小奇麗な服装で夜道を歩かれていると非常に浮いた妖しさがあふれ出というか、それならゴミで作った衣服をまとう浮浪者の方が、まだこういう時間には似合うというものではないだろうか。ああ、けれども決して小奇麗にしている人より浮浪者の方が勝っていると言っているわけではない。衣服を小奇麗かつ清潔に保って生活できている人がどうして劣っていると言えようか。しかしどちらが勝っているという議論はあまり意味のない議論であって、天は人の上に人を作らずという言葉が……、と言っている間に信号が変わってしまった。何か考えていると、時間の過ぎるのは早いものである。
 疲れ果てている彼は横断歩道を渡り始める。対岸で渡りもせずにいる男を気にも留めずに。
 疲れ果てている彼はそれとすれ違う。あまりにも変質的なそれに気が付かず。もっとも――。
「飛行機雲は好きかい?」
 疲労困憊にして虚ろな彼を振り向かせたのは、そんな一言だった。
「はい?」
 振り返った彼が見たのは、背を向けたまま佇んでいる青年の後姿だった。
「もし君が今後魔法とかかわる事が、そして行使しなければならないような事があったなら、空に雲で落書きするように、『何をするのか』と『何が起こるのか』を明確に持ってみるといい。そうすればおそらく、君は何でも出来る」
 疲れた脳が危機を感じてヒートアップする。しっかりしてきた意識が、自分は今何を見ているのかを捕らえる。それなりに暖かい春だというのに暑苦しそうなロングコート。いかにもな怪しさを醸し出しているハットと、そこから垂れ下がった天然らしさを漂わせた金髪。彼は、ひどく、怪しくて危ない状況だと思った。
「ああ、そろそろ行かないと」
 そんな危なっかしさからあっさり開放してくれたのは点滅を始めた青信号だった。青年は、早足に横断歩道を渡り始めた。その後姿を眺めていた彼は、言わなくてもいいのに一言口に出してしまう。
「何なんだよ、あんた」
 大きな声を出したつもりはない。むしろ、小さい声だった。けれども、そんな声量でも足早に歩いていた青年の耳には届いていた。変わる赤信号、対岸同士、入れ替わった立ち位置、青年は振り向き、ただ一言。
「私はトラン。君が欲しい」
 それを聞いた途端、シロは身の毛もよだつ思いで走り去ってしまった。言われた事のショッキングさと、あまりにも印象的すぎる、赤と青の瞳に驚いてしまったから。

 これが、彼ら二人が本当に出会ってしまった、最初の出来事である。
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