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魔法学園小説 ―19話―

 魔法学園とその周辺都市が東西融和のテストケースとして作られているとはいえ、ここに住む人々の多くにはそんなことは関係なく、先進的な技術や物が溢れかえっていることを除けば他の街と同様ごく普通の生活が行われている。
 ある男子学生が学校からの帰りにスーパーに立ち寄り、特売で安く食料を買い込むことができ上機嫌で帰途に着く。というどこにでもあるような光景がこの街でも見られた。
 学園からも商店街からも同じくらいの距離にある、一人暮らしを行う多数の学生が住む住宅街。
 その男はパンパンに詰まったビニール袋を片手に、もう片方には薄っぺらい学生カバンを持ちながらゆったりとした足取りで歩いていた。
 周囲を眺めてはちょっとした事に軽い驚きと好奇心を浮かべ、左右の色が違うオッドアイと呼ばれる珍しい瞳を瞬きする間も惜しいといわんばかりに動かし、夕日を見つめては「自然っていいよね」とでも問いかけんばかりに口元を緩ませ、その男……トランはいつもの道を歩いていた。
 やがて交差点にたどり着く。
 数日前トランが初めてかの少年に会った場所。
 登下校時にはたくさんの学生が通る交差点、そこにトランは今までに見た覚えの無い少女を見つける。
 都市の特性から、ここには魔法学園の生徒以外の若者はほとんどいない。なので少女も魔法学園の生徒なのだろう……が、少女はなぜか交差点の真ん中に立ちじっとしている。
 目を閉じ瞑想をしているのか、それとも何かの魔法を使っているのか?
 興味を持ったトランは"魔法の世界"を見ることにした。
 トランの紅い瞳は紅い光を通さず、蒼い瞳は蒼い光を通さなかった。
 だからトランは両目を使って初めて全ての色を見ることができた。
 片目を閉じれば一つの色が失われる不便な目、しかしそれは同時に唯一両方の目で見ることのできる翠の光を選別する能力をトランに与えてくれた。
 翠の光、すなわち魔力とでもいうべきものをトランは見ることができた。
 わざと焦点をずらし、もっとも大きな翠の光源に焦点を合わせる。
 それだけで世界はトランだけの知る"魔法の世界"へと変化した。
 
 世界を変えたトランが再び少女を見ると、少女が下に向けた手のひらから無数の糸のようなものが伸びていた。
 糸は何かを探すように動いているものと、目当てのものを見つけたように留まっているものがあった。
 多くの魔法は強力なものであるほど解除された後も影響を残す。例えば炎の魔法であれば、使い終わった後もう一度使ってみると威力が強くなったりする。
 糸がとどまっているのは、何らかの魔法の影響が強く残っている場所のようだった。
 どうやら少女はこの辺りで使われた魔法について調べているらしい。
 無数の糸はゆったりした、しかし迷いの無い動作で範囲を広げては目的のものを探し出していく。
 その鮮やかな手並みにトランは魅入っていた。
 トランはこの手の魔法を使ったことはないが、使い手の話を聞いたことはある。
 話によれば相当の集中力を必要とし、一箇所を調べるのにも時間がかかるという。
 その人は、自分にたくさんの手があるとしてそれぞれの手で別々の点字を読み取るようなものだ、と例えていたがそうであるなら少女は物凄いことをやっているのではないだろうか。
 糸は徐々に範囲を広げていき、そしてトランに触れると同時に霧散した。
 トランに気付いた少女は怪訝そうにトランを見つめ、考え込むような仕草をしてから口を開く。
「あなた!ここで強烈な精神魔法を使ったのはあなたね!?」
 どうやら少女は魔法の種類どころか使用者にまで目星をつけてしまっていたらしい。
「もし君が調べている魔法が、数日前にシロという少年に使われたものなのだとすれば、その使用者は私ということになるのかな。」
「そう、認めないならぁ……え?」
 妙にじしんたっぷりな少女は、てっきり言い逃れされると思っていたのか頭の中で話を進めていたらしい。
 すなおに認めたトランに唖然としてしまう。
「素晴らしい君の手並み見させてもらったよ。おかげでつい白状してしまった」
「そ、それはありがとうございますぅ。」
 一瞬トランののほほんとした空気に呑まれそうになった少女だが、自分の目的を思い出し身構える。
「……じゃなくてぇ、あなたが犯人なら話は早いですぅ。ちゃんと詠唱さえしていれば魔法を使うのは勝手ですけどぉ、精神魔法だけは危険性から校則で禁止されてますぅ
 後で生徒会から罰則が与えられますから覚悟していてくださいねぇ」
 言っている内容は重たいものでも舌足らずな口調のおかげであまり緊張感が無いなぁ、とかトランが思っていると少女は壁に立てかけてあったカバンからカメラを取り出し、トランの顔を写した。
「名前くらい聞かなくていいのか?」
「ご心配なくぅ。顔写真さえあれば生徒会のデータベースの方で勝手に照合してくれますので。それに男の名前なんて聞いても覚えるつもりないですから」
 そして短い魔法の詠唱を行うとカメラから何かが学校の方へ飛んで行った。写真を生徒会の本部にでも転送したのだろう。
 カメラをカバンに戻した少女はやることはやった、と立ち去ろうとする。
 では自分も帰ろうかと思ったトランだが、ふといいことを思いつく。
「私はトラン、今年入学したばかりなのだが校則はどこに行けば見れる?」
「ルリですぅ。校則なら生徒手帳に載ってますからちゃんと確認しておいてください」
 少女、ルリは振り返らずに歩いていった。

 トランも交差点を後にし、家に向け再び歩き出す。
 ルリは生徒会の人間のようだがトランの素性に気付いていた様子は無かった。
 この学園の生徒会を甘く見てはいけない。もしもベノムたちが本当に危険な人物、危険な思想を持つ集団だと認識されてしまったのなら、すでにトランを含めた組織の一員は洗い出されているだろう。
 だがその様子は無い。泳がされているのだとしても監視の姿が全く無いのはおかしい。ルリの反応もそれを裏付ける。
 生徒会は今もベノムとベリアルをただの問題児と捉えているはずだ。
 しかしそうだとすればあの夜ベノムたちを襲った黒服はやり過ぎだ。彼らは生徒会とは違うなんらかの、トランたちの組織と敵対する勢力なのだろう。
 トランたちの目的は目下のところシロを連れ帰ることだ。できれば彼が自由意志でついてきてくれることが望ましい。
 生徒会と対立する必要は無い、模範的(問題行動を含めて)な生徒としてこの学園で長期間生活し、長い時間をかけてシロを懐柔してもよいのだ。
 場合によっては生徒会が"敵"からトランたちを守ってくれる、ということもあるかもしれない。
 生徒会に知り合いを作るなり、友好的に接しておくことは悪いことではないだろう。
 ……となるとあの精神魔法の件について、当たり障りのない理由を見繕っておいたほうが良いだろう。
 組織とは無関係な、無計画で、個人的な……
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