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魔法学園小説 ―20話―

「さて」
 昼休みの生徒会室。 外と内を歩く生徒達の喧騒が扉越しあるいは窓越しにでも伝わってくるこの状況下で、しかしそれを除けば室内は葬式の最中のごとき静かさであった。
 その浮きだった静寂の中に君臨し、立派な机には不釣合いなほどに小さな身体をした黒髪の少女だけがやはり静かに、かつ淡々と言葉を重ねていく。
「念のため聞いておきますが……言い訳は、ありますか?」
 彼女の両脇を固める生徒会役員二名すらも――自身がまったく関係ないのにもかかわらず――身震いを感じざるを得ないほどの圧倒的な冷たさを持った糾弾を受けているのは、彼女の前に直立不動で立っている二人の生徒だ。
 その一人は金髪の美少女で、もう一人はヘタレっぽい少年であり……付け加えるならば悪びれた様子をまったく見せていないのが少女の方で、今すぐにでも真っ白に燃え尽きて千の風になりそうなまでに疲弊(きっと心理面で)し切っているのが少年の方である。
 そして、悪びれるどころか不服ですらありそうな金髪の美少女――コガネの方は片手を挙げ、発言権を得た後に言葉を紡ぎだした。
「校則には、違反していなかったと思うのですが」
 呆れるまでに強気な言い訳に対し、黒髪の少女――クロは、小さくため息を吐きながら至極まともな正論を返す。
「生徒会の許可なく作成したチラシを配り、学校の行事をサボタージュし、あげく人が集まらなかったからといって腹いせに魔法を炸裂させたことが――校則に抵触していないと?」
 それは、となおも食い下がろうとするコガネに対し、クロはそれを手で制しつつなおも追撃する。
「確かに、今回の行事は普遍的なスポーツにしか過ぎません。 コガネさん、あなたのように魔法を至上とする主義の方には幾分か不服に思うところもあるでしょう。
……しかし、学校とて何ら考えなしにこんな行事を行う理由はありません」
 お解りですか、とたしなめるように一言を挟みながら、クロは言葉を重ねていく。
「普段は魔法、あるいは科学に関することばかりの授業だからこそ、こういった機会にそのどちらでもないスポーツを行うのです。 そして、この行事は全生徒一同になって行われるものです。 その意図はお解りですよね?」
 ぎゅっ、と下唇を噛みながら俯くコガネを一瞥しながらも、クロの弾劾は容赦のないものであった。
「言うまでもなく、この慶昴国立魔法学園の意図が『魔法』と『科学』の融和だからです。
『魔法』と『科学』の世界には未だに超えられない隔壁が存在する……例えそれが万歩のうちの一歩であろうとも、私達は歩み寄る努力をしなければなりません」
 ゆえに、という言葉から始まるさらなる口撃が為されようとしたその直後に、再びコガネの口は開かれた。
「ですが、生徒会長。 私は思うんです。 私達が魔法を使わないとしたら――」
 一瞬の逡巡の後に、コガネは言葉を続ける。
「私達は、科学側(あいつら)に劣る存在にしかなりえないのでは、と」
 その言葉の声色が幾分か震えていることを、隣にいる少年――シロだけが、感じ取っていた。

「(コガネ……?)」
 八つ当たりをされたことによって未だに少しばかり残っている身体的なダメージと、ほぼ一週間以内に、否、三日以内には繰り返されるクロの精神的な磨耗を伴う説教とで心此処にあらずといった風体であったシロは――ふとコガネの言葉と、その声色の震えに感じるものがあった。
 見れば、クロの両脇を固めている二名の生徒会役員も動揺し、クロ自身も冷静であるように見せかけておいて、その黒い瞳は僅かに揺らいでいた。
「コガネさん。 あなたは先ほどの私の言葉を理解していたのですか? 私は」
「この行事が、西と東が歩み寄るために必要なものだとおっしゃいましたよね?
ですが、私は西と東が歩み寄る必要性……そもそもそれ自体が無意味だと思うんです」
 無意味。 たった三文字の単語に集約された――完全なる否定。 だが、それは、
「……コガネさん。 あなたは、自分の言っていることの意味を、理解しているのですか?」
 それはこの慶昴国立魔法学園の存在意義の完全否定に他ならず、よりによってそれを学園の最高権威といっても過言ではない生徒会の、その責任者たる生徒会長に、一生徒にしか過ぎない立場であるコガネが、言うことは……百歩、いや、一万歩譲ってもありえない、あってはならないことであるのに。 それなのに、
「ええ」
それなのに、コガネはそれを躊躇なしに肯定する。
隣で聞いているシロは――再び茫然自失になろうとして――しかし、コガネを見つめるクロの瞳に宿った例えようの無いほどに底冷えした光を感じ――いてもたってもいられずに、コガネを庇おうとして――
その時何の前触れもなしに、ドアが開く音がした。

 本当に、それは何の前触れもないことであった。 コガネの爆弾とも言える危言に対し、怒りを通り越して絶対零度なまでに冷徹な態度を取ろうとしたクロの二者間からなる氷結で、扉すらもが凍り付いていても何らおかしくなかったのに、その扉は開いた。
「――と、失礼。 お話中でしたか」
 まるでこのマイナス零度以下の空間を解凍しようとしているのだ、とでも言いたいのかと思われるほどの柔和な笑みと共に、その男子学生は「空気は吸う物であって読む物ではない」とでも言いたげなまでにナチュラルな動きで室内へと侵入する。
「何ですか、あなたは――」
「あ、あなたはぁ! この前」
「お、お前はこの前、俺に求婚してきた変態ぃ!?」
 怪訝な顔でのクロの問いかけと、先ほどまでのクロのコガネに対しての弾劾に加えてコガネの危言によって困惑し切っていた少女、ルリの驚愕と、ある意味――否、彼に関しては確実に一番の被害者であるシロの絶叫が見事に重なり、今までの雰囲気が消し飛んだ。
「変態って……私はそんなに変なことを言った覚えは無いのだが」
 対し、シロの変態発言に少し困ったような微笑みを返すその男性。 その柔和な笑顔を見ればなんとなしに懐柔されそうではあったが、当初は真剣に身の危険(主に貞操)を感じざるを得なかったシロは流石に納得しない。
「い、いやだってアンタ、アンタ、えーっと……」
「トランだ」
「そ、そうそう、トランだ。 アンタ、唐突に名乗りながら、その、お、俺が欲しいとかなんとか言っていたじゃねぇか!?」
 シロの発言によってざわつく室内。 シロはまったく考慮していなかったが、彼の隣にはコガネ、彼の正面にはクロ、そのクロの左隣にはルリ、ついでに右隣にはポニーテールの少女がおり、急に来訪したトランを含めても室内の男女比率は圧倒的に女性側に傾いていた。(あろうことか、なんとクロは赤面までもしていた)
「ちょ、ちょっと待つですぅ! じゃ、じゃあもしかしてあなたが精神魔法を使った目的って……!?」
 自分で言っておきながら、その後のことを考えて両手で頬を押さえ、不潔ですぅ!と叫びながらルリは首をブンブンと横に振る。 自身のことは無論ダンクシュートの勢いで棚上げである。
 それに対して、しかしトランはのほほんとした調子で応えた。
「あぁ、今日はその件に関してちょっとばかり言い訳を……と、入ってきていいよ」
 まるでこの部屋の主であるかのようなトランの呼びかけに対し、失礼します、という控えめな声の後に、再び扉が開かれる。
「ちょっ……!?」
 シロが、目を見開く。 それというのもトランの合図で入ってきたのが紫色の髪をした、邪気のない天使のような微笑みを浮かべている少女だったからである。
「あなたは……」
 コガネが訝しそうな表情で何かを言う前に、トランが口を開く。
「あぁ、紹介します。 こちらは私の妹の――バイオレットです」
 トランの言葉を継ぐように、その少女はペコリ、とお辞儀をした。
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