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魔法学園小説 ―22話―

「あぁ、紹介します。 こちらは私の妹の――バイオレットです」
 トランの言葉を継ぐように、その少女はペコリ、とお辞儀をした。
「みなさん、初めまして。突然お邪魔して、スミマセン。……でも、絶対に今がいいチャンスだと、この子が言うものですから」
 そういいながら、少女は胸元に抱え込んでいたシルバーカラーの貝殻状の何かに向かって、「だよね?」と語りかけていた。
 そんな少女の様子を見つめ苦笑しながら、トランは言葉を継いだ。
「シロ君を欲しがっていたのは、私ではなくて実はバイオレットのほうでね」
「「「ええぇ?」」」
 クロ、コガネ、ルリの声が綺麗に重なる。だが、トランはそんなことを意に介さずに、ただひたすらにシロを見つめながら話しを続けた。
「ただ、妹は――――そう、少し引っ込み思案のところがあるのでね。ついつい手を貸してあげようと思ってしまったんだ。それであんな不躾な物言いをして君を試してしまったという訳だ。ほんとうにすまない。」
「試した、……って? オレに一体何を」
「あの時、私は君に精神操作を仕掛けたんだ。……君に『特定の思い人』がいないかどうかを確かめるためにね」
「「「……特定の、思い人」」」
 クロ、コガネ、ルリのつぶやきのハーモニーが奏でられ、視線がシロに向けられる。
「ただ、そのことをバイオレットにものすごく攻められてしまってね。だから、こうして侘びに来たのだが……許してくれるかい?」
 そう言うと、トランはじっとシロを見つめてきた。
「ゴメンなさい、シロさん。お兄ちゃんが勝手にそんなことをしていたなんて、私、ちっとも知らなくって……私のこと、嫌いになっちゃいました?」
 そういいながら、ウルウルとした目で見つめてくる少女。
「いや、その、ってか、つまり、えっと……」
 そうしどろもどろに答えながらも、シロはどうこの状況から抜け出そうかと、ただひたすら考えていた。
クロ、コガネ、ルリの冷ややかな注目を浴び、なんら見ず知らずのポニーテールの生徒会役員の好奇の視線を浴び、トランとバイオレットの熱い視線を浴び。
――――あぁ、オレ、何か悪いことをしたっけ……まさか、これはチラシ配りを手伝ってもらった天罰なのか?
「あは、あははは、ははははは……はぁ」
そんなことを思いながら、乾いた笑い声をあげるしか出来ないシロであった。


――――― コンコンコン。 ――――

 そんなシロの窮地を救ってくれたのは、開け放たれていた生徒会室の扉をノックする音だった。
「青春っ盛りのところを、申し訳ないんだけれども。ちょっと生徒会長さんに話があるんだけど、いいかな?」
 扉の外に立っていたのは、2メートル以上もあろうかという筋骨隆々の男だった。
「お兄さ…………コホン。私に話とは、一体なんの用です?」
「スミマセン、会長。ちょっと鍛錬場修繕についての予算について、折り入って相談しなければならない事が出来まして」
「……仕方がありませんね。では、コガネさんの件については、又後で、といたします。皆さん、下がっていただけますね」
「ハイ、では、失礼いたしました!」
 クロのその言葉に、間髪をいれず頭を下げ、まるで水を得た魚のように生き生きとして部屋を出て行くシロ。
「あ、シロさん、待ってください……って、きゃぁ!」
 シロのあとをいそいそと付いていった……と思いきや、いきなり転ぶバイオレット。
「やれやれ。あいかわらずだな、バイオレットは。ところでシロ君、私を許してくれるのかい?」
 そういいながら、なにやら難しい顔をしながらシロのあとを追うトラン。
「あのヘタレに……そんな、そんなこと、ありえない」
 なにやらブツブツと言いながらも、シロ(とバイオレット)のあとを追うようにして出て行くコガネ。
「あ、おねぇさまぁ、まってくださいよぉ」
 そういいながらコガネの腕にぶら下がって出て行くルリ。
「それでは、私も失礼いたします」
 そういいながら、扉を閉めて出て行くポニーテールの生徒会役員。
「「………………」」
 そんな彼らの喧騒が遠ざかり、辺りに静寂が訪れるまで、残った2人は無言で見詰め合っていた。
「……で、予算だなんて嘘をついて、一体なんなんですか? お兄様」
「ん? そうだなぁ。……強いていえば、クロちゃんとちょっと話がしたくってね」
「だから、その話の内容を聞いているのですが。断っておきますが、嫌味は聞きたくありませんから。今回の件は、絶対にあの2人が悪いのです」
「あぁ、そんなことじゃなくってね。ただ……PTAが動いているようだよ、と伝えておこうかな、と」
 その言葉を聞いたクロの顔が、さっと引き締まる。
「なんですって!? まさか、そんな」
「いやぁ、それがどうも本当らしいんだなぁ」
 PTA―――― Post Technology Association と名乗る団体。
 彼らはこれからの世界の主導権を握るのは科学ではなく、魔法と科学の両方を極めた者たちだと信じている、そんな人たちの集まりだった。
 彼らは学園都市設立時こそ強硬な姿勢をとっていたのだが、都市部に学園の卒業生が増えるにしたがって徐々にその態度を軟化させ、ここ何年かはその存在が確認されていなかったのだ。
 うわさでは何年か前の飛行機事故に関係していたとも言われたが、その証拠はついに挙がらなかった。結果、彼らはすでに存在しないのでは、と、半ば過去の歴史として語られるだけの存在になりつつあったのだ。
「なんで今頃になって、彼らが」
「さぁ? それは彼らに聞いてみないとねぇ」
「…………それで、お兄様は何故、私の頭を掻き回しているのですか?」
「ん? そうだなぁ。……強いて言えば、クロちゃんが可愛いから?」
「あぁ、もう。これは止めてくださいっていつも言っているのに。私にだって、我慢の限界があるんですよ?」
 そういいながらも、クロの表情は別段イヤそうには見えない。
「減るものじゃないから大丈夫」
「……馬鹿に、してます?」
「まさかぁ。ただ、クロちゃんの緊張をほぐしてあげようかな、と」
「…………ズルイです、お兄様は」
 すっと体を離して、拗ねたような声を出すクロ。
「かもね。まぁ、クロちゃんはとりあえず……」
「とりあえず?」
「シロ君から、沢山の事を学んで欲しいな。PTAの相手は、出来る限りこっちでするからさ」
「…………。」
 その言葉に、クロは顔を曇らせながら下を向いてしまう。
「不満? でも、そこは我侭を言わずに聞いて欲しいな。PTAが動き始めたということは、もう一方が動き始めるのも時間の問題だろうからね」
「もう一方?」
「あぁ、それは今はまだクロちゃんは知らなくてもいいよ」
「そんな! 私は、この学園の生徒会長として!」
 思わず、といった感じで顔を上げ、声を張り上げるクロ。
「私だって、微力ながらお兄様のお役に立てます!」
 2人の視線が絡み合う。一方は、力強い意思をこめて相手を見つめ、もう一方は、慈しむように相手を見つめる。
「ふふっ。大丈夫大丈夫。そんなに肩肘張らなくっても、クロちゃんは良くがんばっているよ」
「…………」
「それに、シロくんから沢山学んでくれた方が、結果として、みんなを助けることになるんだからさ。ね?」
 そういいながら、男はクロをやさしく抱きしめる。
「……ズルイです、お兄様は」
 真っ赤になったクロが、うつむきながら、ポツリと呟く。
「大丈夫大丈夫。あせらずゆっくりと、少しずつ大きくなればいいんだから、ね?」
「………………」
 二人の周りにだけ、時間が止まったかのような柔らかい空気が漂っていた。
「だからさ、過去の亡霊たちの事はこっちに任せて。その代わり、クロちゃんたちは……」
「……未来の可能性を、紡ぐんですね?」
「そういう事。さすがは生徒会長さん。お願いできるかな?」
「解りました。ただ……」
「ただ?」
「お兄様も、気を付けてくださいね」
「了解。忘れないように努力するよ」
 そういい残して、男はふっと掻き消えてしまった。
「お兄様ってばまた無詠唱で魔法を……」
 そうつぶやきながら、クロもまた、毅然とした足取りで生徒会室を後にするのだった。
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