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魔法学園小説 ―24話―

 夕刻。茜色に染まった部屋の中、シロの時間は静止していた。
時間が静止すると言っても、何らかの魔法によって本当に時が止まっているわけではない。それはただの比喩的な表現であり、ようするに時が止まっているかのごとく、今のシロには動きがなかった。
 いや「動きがない」というよりは「動けない」という方が適切なのだろう。シロをそのような状態に追いやったのは、彼の正面に座っている紫色の髪をした少女。
 夕暮れ時で、世界全てが茜色に染まるからだろうか……彼女の両頬は心なしか赤いように見える。いや、シロの視力はこれでもいい方だ。日々死にたいオーラを醸し出している彼ではあるが、別に自殺願望があるわけでもなく、健康管理は意外にしっかりしている。
 そんな裸眼1.5という無駄に優良な数値を持つ彼の瞳には、確かに頬を紅潮させ――心なしか所在無さげに俯いている少女の姿が映っていた。
「(……あぁ、なんだろ、この状況は)」
 心の中でそうぼやきながら、シロは人知れず天を仰いだ。と言っても別に面白くもなんともない自分の家の天井を見たかったわけではない。単に、そう――初々しく頬まで赤らめている彼女を見ていると、見つめすぎていると、その、なんというか、自分が何か悪いことをしているような錯覚に陥ってしまいそうになるのだ。
「(こういう時……どうすればいいんだろ)」
 心底ヘタレである白髪の少年は、心の中で嘆息しながら、密かに困り果てていた。

 その数時間前のこと。学園からの帰り道でほぼ必然的に(待ち伏せとも言うが)バイオレットと一緒になったシロは、彼女と雑談をしながら歩いていた。
 何の事はない。ただ、今日受けた授業とか、通学途中で見かけた少し面白いことだとか、そんなレベルの雑談……もっとも、普段はコガネ以外にほとんど話し相手を持たないことに加え、そのコガネとは今一歩まともに会話が成り立たないことが多いような気がしていたシロとしては、まともな人間とありきたりな会話をしているだけでも結構楽しかったが……そんな風に雑談している間にシロの家の前に着いた。
「あ、もう……こんなところまで来ていたんですね」
 少しの驚きと、名残惜しさを感じる声でそう告げるバイオレットに対して、別に気の利いた台詞を言えるわけもなく、そうだね、と普通にシロは返す。
 この数日間――コガネと共に生徒会室に呼び出され、コガネの思わぬ発言によって彼女が自宅謹慎をすることになった翌日から、バイオレットはこうして帰路に着くシロを待ち、自然な流れで一緒に帰っていた。偶々なのか……それとも彼女が無理に合わせているのかはわからないが、進行方向は同じでシロの家の方が近かったので、この数日間はいつもシロの家の手前で、彼らはわかれていた。
 そして、今日も――とシロは思っていたが、彼女は違っていたようだ。
「あ、あの、シロさん」
 また明日、と言ってそのまま去ろうとしていたシロは、バイオレットの呼びかけに応じて立ち止まり、振り返り彼女を見る。
 まだ夕刻には少し早いが、時間帯のこともあって赤らみ始めている光に照らされながら、彼女は少しの逡巡の後に、それ以上の勇気を以って言葉を紡ぐ。
「あの、今日は、その……一緒に、お茶、でもしませんか……?」
「え……」
 思わず聞き返すシロに対し、少し慌ててバイオレットは視線を逸らしながら、
「あ、いえ、嫌だったらいいのですけど。その、お兄ちゃんが迷惑かけたから、お詫びも兼ねて……そ、それに、いい茶葉が手に入ったので」
 そう言ってバイオレットは鞄から包みを取り出しながら、心細げにシロの表情を窺う。
「あの、ダメ、ですか?」
 そう言う彼女の瞳は、心なしか潤んでいるように見えた。

当然ではあるが、シロがこれを断れるわけがなかった。

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