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魔法学園小説 ―29話―

 黒塗りの車に乱暴にぶち込まれて、最初に聞いたのは聞き慣れた変態の声だった。
「やあ、昨日ぶりだね。シロ君」
「トラン……」
 睨んだだろう。だけどこいつはいつも通り澄ましている。
 一体何なんだと言いかけたのを、エンジンの音に止められた。
「急げ。コガネ君が飛んでくるぞ」
 大の大人の大男に指示するトラン。大男は大男で黙ってそれに従っている。ただの学生だろ? 一体こいつは……。
「何か言いたい事が沢山ありそうな顔してるけど、生憎こっちにも時間がなくてね。彼女を撒ける気がしないから要点だけ言おう。君のお父さんの話を聞きたくないかい?」
 うるさいエンジンの音、超高速で過ぎていく風景、怪しい男たち、父親の話……。
「何で……」
 ――――変だ。変だ、何かが変だ。
「何で、親父の話なんだよ! 准将ってなんだよ! 空軍ってなんだよ! 親父はなあ、外交官だったんだぞ! 西と東の調停のために、毎日あっち行ったりこっち行ったりしてたんだぞ!」
 ――――いや、それは本当に調停のためか?
「勉強しなくてもいいのに、自分で空飛べるのに、一杯勉強して、飛行機の免許取ったって昔何回も聞かされて……」
 ――――勉強しなくていいのなら、何のためだ?
「…………それに、軍服なんて、見た事ないぞ!」
 ――――そうだ、見た事ない。だから、空軍なんて関係ない。
 叩きつける様に吐き出して、返ってきたのは大男たちの冷笑と時速100キロのエンジンの喚き声だった。

「ルミネス海峡での紛争が終わったのが20年前。イディア砂漠、ハーレン密林地帯での紛争、ロムド市街解放戦が終わったのが21年前。22、23年前には10の紛争と7つの戦闘を、24、25年前の2年間は小規模東西大戦とも言えるイース州解放戦を」
 何がおかしい! と叫びそうになったのを、トランの歴史の授業が歯止めになった。
「この5年間、この実験都市周辺で起こったほとんどの争い事を制してきたのは、いつもある2つの兵器だった。それは――」
「それが親父だって言うのかよ!」
 両脇に控えている大男に手首を掴まれた。反射的に手を上げていた。
「座りなさい」
 機関銃を構えたベノム、両サイドに大男。感情的になった頭に逆らってどっかと座り込む。トランのため息が聞こえた気がした。
「それは、1つが純白の戦闘機。機関銃もミサイルも爆撃もない、ただ速く、華麗に飛ぶ事だけを追求された機体だ。西の最高の魔法使いを乗せた時、ただ華麗なだけのこの飛行機は戦闘機として『カントレイル』と呼ばれていた。東の凄腕パイロットたちはその5年間で、カントレイルにたったの13回しか、かすり傷を与える事が出来なかったらしい」
「そのパイロットが親父だって言うのか!」
 今度は手を上げなかった。ただ、前の席にいるトランの後ろ頭を睨むしか出来なかった。
「このカントレイルのパイロットは、ベノムの親戚なんだ」
 訝しげなワードがトランの口から飛び出した。
 ――――親父と、ベノムが親戚?
「人間の体には設計図が組み込まれている。生まれてくる前に設計図に手を加えて自由にデザインした人間を作ろうというプロジェクトがあるんだ。コントロールド・ヒューマン、デザイナー・ベビー、ネクスト・パーソンとか呼ばれているけど、私たちはこう呼んでいる」
「『WETRO』プロジェクト」
 トランの独白にベノムが口を挟んだ。
「カントレイルのパイロットは運動能力だけ見ると究極的だった。生まれた後も軍事施設で徹底的に鍛えられていた。文字の読み書きなんて最低限しか習わなかったそうだ」
 ――――親父がそんな人だったなんて、一度も、これっぽっちも知らない。何か、変だ。
「何より、心が脆かった。出撃前にはいつも薬で誤魔化していたそうだけど、毎回自分の手で何人も葬っているのがショックで、最後には墜落してしまった」
 ――――違う。これは親父の話じゃない?
「その次世代がベノムだ。ウェトロプロジェクトは第2世代として、ベノムのような子を何人も作った。多くは初代と同じように発狂して若くに亡くなってしまったが、ベノムは無事生き延びた。バイオレットと共にね」
 ――――こいつは何が言いたいんだ? 親父の話じゃないのか!
「ぅ……」
 膝が痛い。無意識に、自分で殴っていたみたいだ。どうかしてる。
 振り返りもせず、トランはフ、と鼻で笑っていた。エンジンの騒ぎ声が耳障りだった。
「話を変えようか。この5年間の戦闘の度に現れた、もう1つの兵器はオーディショナルファクターと呼ばれている、人間大の大きさ、牛の頭、魚の鱗、蛇の尻尾、狼の足、猿の腕を持ったキメラだ」
「は……?」
 ――――こいつは何を言ってるんだ?
「そんな、御伽噺じゃあるまいし」
 ――――ふざけてる。そんなものがいたら、とっくにニュースになってる。
 はは、は。乾いた笑いがこぼれた。こいつら、どうかしてる。こんな奴らに付き合ってられない。もうちょっと、もうちょっと我慢していたら、きっとコガネが助けに来てくれる。
「正確には、それは本体を覆う鎧であり、剣だった。体を覆った鱗は鋼のように硬く、彼も魔法を使えたから銃弾も砲弾も彼に傷を付けれなかった。大地を走る彼は鳥よりも速く、刀より鋭い爪で次々と地上の敵を屠っていった」
 ――――作り話だ。そうじゃなかったら宗教だ。こいつら、頭がイカれてる。
「その戦績は彼をより付加的なものにしていった。動物も、機械も混ぜこぜにくっつけていって、キメラなんて呼び方はもう相応しくない、空飛ぶ化け物、オーディショナルファクターが生まれた」
 ――――よせよ。もう、いいって。それ以上は聞きたくない。
「これが鎧と言っても外科的な処置も沢山行われたらしい。要するに、本当に体と引っ付いたものが沢山あったと言う事だ。当時の実験資料によると、まともな人間では耐えられないショック値と体内電流値の結果が残っている。心無い研究者の中には、これはもう人間ではないと言う奴もいたらしい」
 ――――やめろ。やめてくれ。
「最終的に、彼は戦闘に出られないほどの傷を負って、晴れて普通の人間の体に戻されたんだが、無惨な手術痕を魔法で隠し通した生涯を送ったらしい」
「もうやめてくれ!」
 両手一杯で自分の膝を叩いた。間髪いれずにベノムの銃口を額に押し付けられた。
 そして、トランの独白は止まらない。
「…………ウェトロプロジェクトの第2段階はベノムのように精神異常をきたしつつも正常を保っていられる例でしか生きられたケースが今のところ、ない。オーディショナルファクターは非人道的すぎて二の足が踏めない状態。私たちは、この2つをいまだ実践に投じている組織と、この2つを足した者たちと戦っている。数は大した事がないんだが、何しろ固体のポテンシャルが異様に高い。そのために、私たちは伝説の魔法使い、ヒルグ様にご協力願いたかったのだが、今はもういない。初代ウェトロももういない。ウェトロセカンドたちは安定と引き換えにポテンシャルが絶対的に低い。オーディショナルファクターはもう使えないし、使う気はない。つまり…………」
 ――――つまり、なんなんだよ。もう、いい加減にしてくれよ。助けてよ、コガネ。
「…………君の出番なんだよ、シロ君。君さえいれば、全てが変わる。何もしなくていい。ヒルグ様のご子息とあれば、士気も上がる。ウェトロサードも私たちの味方になる。そうすればカルトレイルも蘇る。カルトレイルが蘇れば、さらに士気が高まり、その姿に魅せられてなお味方は増える。この連鎖が起これば、奴らPTAを倒すのは夢物語じゃなくなる。もう一度言おう、何もしなくていい。ただ、君が私たちの仲間になると言ってくれればそれでいいんだ」
 ――――返事なんて、決まってるだろ?
「嫌だ」
 より強く押し付けられる銃口。トランのため息が聞こえた。引き金を引こうとする音も聞こえた。男たちが立ち上がろうとする音も聞こえた。車の中だぞ、頭ぶつけるぞ。変わらないのは、エンジンの唸り声だけだった。
「……そう、言うと思ったよ。でも、君は戦いから、戦場から逃れられる運命じゃないんだよ。だって…………」
 ――――もういいだろ? 返事は聞いたろ? 答えは変わらないから、帰してくれよ。

「だって、ヒルグ様はオーディショナルファクターじゃないか」

 爆音、飛翔。
 突如、地面のコンクリートが爆発し、時速100キロの黒塗りの車がフライトする。キリモミしながら反転し、逆さまになった状態から地面に着くまでの間に、ドアが、窓が、ハンドルが、座席が、塵に霧にと霧散する。空中にて、シロ以外が勢いに流されて地面へと叩きつけられるが、見事な受身で体勢を立て直す。シロは、空中で不自然に静止している。
「さすがに速いな、コガネ君は」
 埃まみれになりつつも、トランは調子を崩さない。その隣でベノムは、米粒より小さく見える、遥か遠くから空を駆けてくるコガネを睨みながら、シロに語りかけた。
「もう1つ、教えてあげましょう。あなたを助けに来た、あの女こそ、『Wobniar EhT RevO』プロジェクトThe 3rd、『社会的体験による不安定要素の安定化実験体』よ」
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