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魔法学園小説 ―30話―

「社会的体験による……?」
 空中での不自然な静止からゆるりとした速度で下降し、地面に下ろされたシロは呟くようにしてその単語を繰り返す。
 『社会的体験による不安定要素の安定化実験体』――ベノムは先ほど、そう言った。
 『Wobniar EhT RevO』プロジェクトThe 3rdとも言っていた。
 ……誰のことを? シロはそう思うことで、現実を誤魔化す方向へと誘おうとする。
 不都合なことが起こったりした場合に、シロはよくそうやって真実から目を背けようとしてきた。 彼の今までの無気力さは、それによって確立されたものと言ってもいい。
 だが、今回はそれができなかった。 目を逸らそうとしても、シロの視線はこちらへと高速で接近してくる見覚えのある少女に釘付けになっていた。
「えぇ。 不安定要素というのは、ファースト……ヒルグの場合に見られた、心の脆さのことよ」
 相変わらず冷淡な声色で、ベノムが答えを返してくる。 その目はあと十数秒ほどでこちらへと接触してくるであろう金髪の少女の存在を捉えて離さないままだったが、その表情には余裕――否、さらに言えば嬉々とした感情すらも浮かべていた。
 そして上機嫌な彼女は、以前の様子からは考えられないほどに饒舌だった。
「ファーストは幼い時から軍事施設に入れられ、徹底的な訓練を施された。 早朝に起床、昼になるまでは身体能力面を中心としたトレーニング、栄養価だけは完璧な食事をたっぷりと摂ったら午後にはフライトの練習、夕食は昼とまったく代わり映えのしないモノを摂らされて、深夜に至るまで人体実験……家畜以下の日々、これがファーストの現実だった。
まぁ、精神が壊れてしまうのは当然ね。 むしろ、ファーストはよく持った方よ……最終的には家庭を作って、自分の子供だって為したのだから、ほんと、恐れ入るわ」
 そう言って、一瞬だけこちらへと向けられたベノムの視線には、以前とは違って少しばかりの感情――同情というのが一番近いだろうか、そんな心の動きが見られた。
「ファーストの最大の失敗、それを研究者達は何とか克服できないものかと考えた。
その過程で私やバイオレットのようなセカンドが大量生産されて……ほぼ同数の失敗作が大量放棄されたわ。 まるでパーティの後に出される、吐き気を催すゴミ屑みたいにね。
その甲斐もあってか技術は進歩して、サードの製作段階である提案が為された」
 それが、『社会的体験による不安定要素の安定化』なのだと、ベノムは言う。
「彼ら曰く、社会において人は一人では生きられない。 他人と関わることなしに、生活していくことなんてまず不可能。 さらに言えば、他者の存在は時に自分を直接支えてくれる存在にもなる。 つまり『絆』を持たせることによって、彼らはサードの精神面を補強できないかと考えた。 故に、研究者の一人……その提案をした者と、その恋人だった者が当時まだ赤ん坊でしかなかったサードを引き取って、親として育て上げ、あたかも普通の人間の人生を歩ませるかのごとく、この学園に入学させた」
 シロの頭の中で、コガネとの出会いが思い出される。
 シロの頭の中で、コガネと過ごした幼き日々が思い出される。
 シロの頭の中で――彼女の、心からの笑顔が思い出される。
 心ここにあらず、という様子で呆然としていたシロを見て何を勘違いしたのか、ベノムは無垢な微笑みを浮かべながら、姉が弟を諭すかのように優しい声で言った。
「大丈夫よ。 あなたは、普通の人間でしかない。 ……ファーストの子である以上はその魔力を受け継いでいるとはいえ、それも未だに開花する様子を見せない。 あなたは、本当に何の変哲もない人間なのよ」
 それは本当に優しい声で、しかし同時にそれは、シロの運命に対する無力さを嘲笑うかのようにも聞こえてしまって、
 シロは、心の底から絶叫した。

 コガネは高速で空を飛んでいた。
 何のことはない。 空など常日頃から魔法によって飛んでいる。 翼などなくとも、コガネの魔法はそれを可能にする。 空を飛ぶというのは、コガネにとっては呼吸をするかのごとく、容易いことであった。
 だが彼女は今、その常日頃からも考え付かないような超高速で空を飛行し、地上を走る車を先ほどまで追跡し、なおかつそうしながらもその車に向かって魔法による攻撃を加えていた。
 はっきり言って、それは人間業ではなかった。 いや、魔法というのは元々人間離れしている存在ではあるが、それでも人間が扱うものではある以上、限界は存在している。
飛行にしたって、せいぜい早くて自転車で走るぐらいのスピードしか出せない。 はず。
 だというのに、コガネはその限界を一回りどころか二回りは超越していた。 なおかつ、鉄の塊を吹き飛ばしうるほどの威力の高い魔法攻撃を、未だにかなり離れていた位置から、スナイパーが何百メートル先の対象物を狙撃するかのような感覚で、正確に当てた。
 もはやそれは、神業とすら言えることであるにもかかわらず、コガネは自身がした行為に何ら疑問を覚えていなかった。 それぐらいに必死というのもあるが――何よりも、感情の暴走によって、彼女の思考能力は落ちていた。
 でなければいくらなんでも、シロが乗っている車を全力でぶち壊そうとはしない。
……はずである。
「(許さない)」
 烈火のごとき怒りが、彼女を突き動かす。
 その要因があのヘタレ幼馴染であることを指摘されれば、普段の彼女はブチ切れてそれを全力否定するのだろうが、実際にはズバリ言って、コガネの怒りの原動力はシロのこと、彼を誘拐されたことなのであった。
「(許さない)」
 昨日の夜から、おかしいとは思っていた。 あのトランという奴は初対面から胡散臭さ大爆発だったし、バイオレットとかいう胸の大きい(コガネにとってはそれもムカツクことだった)あの女も普通の気弱な少女の体ではあったが、トランの身内ならば本心は怪しいものだ。 なにより、学園の窓から校門前でシロが連れ去られた際に、彼女らしき人影を目撃していたコガネとしては、心象は最悪になっていた。
「(許さない)」
 怪しいと思いながらも深くは追求しなかった自分もそうだが、何よりも。
 シロを手に入れるためだけに彼に近づき、その心を踏みにじった形で裏切った彼らは、
「(――ブチ殺してやるわ)」
 コガネの激情が、彼女をさらに加速させる。
 それに費やされる膨大な魔力。 それは人間が所有できる限度を遥かに超え、なおかつ制御を見誤れば一瞬にして体中の肉がひしゃげ、骨が潰れ砕かれ、臓物が飛散しかねないような状況であるにもかかわらず、コガネはそんな危機に自分が直面しているなどということは、夢にも思わない。
 それもそのはずで、彼女は体に何ら不調を感じていないどころか、むしろ普段よりも調子がいいとさえ感じていたのである。
 そんな、タガが外れた彼女の目に映るのは、地上からこちらを迎撃しようとして構えている黒服の連中であった。

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